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ふわり、恋心  作者: 紫月咲
1章 初めての友達
1/8

声をなくした乙女

新連載、初めてしまいました!

この作品は、『龍王様の半身』本編開始時より、7年後のお話です。

気長にお付き合いいただければ、幸いです。





白い、花びらが舞う。

真っ白な花びらは真っ青な空の中を舞い、並び立つ亜麻色の乙女と深緑の青年へと降り注ぐ。

そして、その花びらを舞わせている漆黒の乙女は、心から嬉しそうな笑顔で、その2人を見つめている。

その乙女の両側に並び立つ、白銀と深青の青年に、寄り添われながら。


ふと、白い花びらが亜麻色の髪に落ちてきて、その花びらを取りながら優しく髪を撫でる手に、乙女は青年を見上げる。

乙女を見つめる瞳は柔らかく細められ、ただ愛しいと言わんばかりに甘い眼差しが向けられている。

その瞳に恥じらうように頬を薄桃色に染めた乙女は、青年にだけ聞こえる声で囁いた。





「オルガ様…私、幸せです。」


その囁きに、青年は瞳を細めたままその華奢な身体を抱き寄せ、耳元に顔を近づけると、囁き返す。





「…我もだ。ミリィ…そなたと出会えた奇跡を、我はいつまでも忘れぬ。これからも、共に…」


その囁きに頷き、乙女はその逞しい背中に腕を回す。

そんな2人を祝福する花びらが、止むことはない。



これは、声をなくした乙女と寡黙な地龍の、偶然が巡り合わせた恋の物語――。






     *






春の暖かな風が吹く。

一年中、穏やかな気候を持つルシェラザルト王国の、王都シュベリアナ。

その西に位置する住宅区の一角に、多くの貴族達から“花屋敷(フラウベーネ)”と呼ばれる邸があった。

濃青の屋根と白亜の邸は、さほど豪奢でもなく、しかし手入れがよく行き届いた、その邸の当主の人柄が見えるような、清廉な佇まいをしていた。


そしてその邸の中庭にこそ、“花屋敷(フラウベーネ)”と呼ばれる由縁があった。






「――ミリィ?ミリィはいるかい?」


その中庭にある、色とりどりの花達で出来たアーチの中を抜けながら、柔らかいテノールで青年は探し人を呼ぶ。

そしてその声に応えるのは、涼やかなベルの音。

聞こえたその音の元に辿り着き、探し人の姿を捉えた時――亜麻色の短髪に薄茶の瞳をした青年、アルベルト・エネル・ハフィー・ドードリンは、ほっと息を漏らした。





「探したよ、ミリィ。もう昼食の時間が過ぎてる。僕の妹は、このまま昼食を食べ逃すつもりかな?」


苦笑いを浮かべながら漏らされた言葉に、ミリィと呼ばれた、兄と同じ亜麻色の腰まで伸びた波打つ髪に、琥珀色の大きな瞳をした乙女――ミリアリス・ラド・メルナ・ドードリンは、その口を開くことはなく、腰に巻かれたエプロンから紙束と小型の毛筆を取り出すと、さらさらと言葉を綴る。





『ごめんなさい、お兄様。

でも漸く、メルアドネの花が蕾をつけたのです。

それで夢中になってしまって…』


差し出された紙に書かれた言葉を読んだ青年は、仕方ないと言いたげな表情で、その髪を撫でた。





「作業に夢中になるのは構わないけど、きちんと食事は取らなきゃいけないよ?」


自分の言葉に、素直に頷いた乙女の姿を確認してから、青年はまたいつものようにその手を取った。





「…さあ、一度戻ろうか。父上も母上もお待ちだよ。食事の席で、ゆっくり話を聞かせておくれ。」


兄の言葉にまた頷いて、乙女はその後に素直についていく。

そんな2人の背中を、色とりどりの花達と蕾を揺らすメルアドネの花が、見守っていた。


その邸――ドードリン子爵家が“花屋敷(フラウベーネ)”と呼ばれる由縁。

それは生まれつき声をなくした乙女、ミリアリスの研究によって創られた、色とりどりの花達で溢れているからだった。



乙女の幸せを諦め、花を育てることにその一生を捧げることを決めたミリアリスの毎日が、ある出会いによって一変することを、この時は当人も家族も、知る由もなかった。







思い余って、始めてしまいました(笑)

本編とは違いまして、主人公のミリィちゃんは、花の研究以外には特別な力のない、ごく普通の女の子です。

これからミリィちゃんの周りで何が起こるのか、お楽しみいただければ幸いです。

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