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(2)

な・・・なにそれっ??

あたしを助けてくれたのは柿崎さんだよ? あんたじゃなくて、お兄さんの方!

てか・・・


「あんたもいたの? あの時?」

「いたのも何も、オレが助けてやったんだろうが!」

「えっ!?」

「オレがドブに飛び込んで、お前を引っ張り上げてやったんだよ!」

「うえぇ!? だ、だってそれは柿崎さんが・・・!」

「あのフットワークの鈍い兄貴に、そんなマネが出来るわけねえだろっ」

「うっ・・・」

「兄貴は泣いてるお前を宥めて、家まで背負って行っただけだよ」

「・・・・・」


あ・・・うぅ・・・・・。

え、えっとぉ・・・・。


あたしは目と口をぱっかり全開にして呆けながら、頭をフル回転させた。

当時のシーンを頭の中で再生する。

あの時、あたしが見た物は・・・

心配そうにあたしを見下ろす柿崎さんの、真っ白なシャツ・・・。


・・・・・。


そうだ。

真っ白だった。


あたしを助けに飛び込んだなら、シャツが真っ白なわけない。

あの時のあたし同様、ヘドロまみれになってるはずだ。


・・・・・。


そういえば。


柿崎さんに背負われている時。

後ろから、ベタベタと後をついてきてた物体がいた気がする。


頭っからヘドロに覆われて

まるっきり男か女かも見分けもつかない

あたしと同じ年くらいの背丈の・・・

背丈、の・・・・・


あたしは、まん丸な目で大地を見上げた。


「あん時のヘドロの物体って、あんただったの!!?」

「ヘド・・・お前が言うなお前が!!」


叫び返す大地の声をあたしは半分飛んだ意識で聞き流す。

頭が混乱しちゃって、もうワケわかんない。

ええっと、それってちょっと待ってよ。


「お前なあ! そりゃ確かにドブから上がって最初に見たのは兄貴の顔だろうけど!」

「・・・・・」

「だからって、都合良く兄貴の事だけ記憶してんじゃねえよ!」

「・・・・・」

「助けた張本人はオレだぞ! オレ!」

「・・・ちょっと黙っててよ」

「当時の宝物だった戦隊レンジャー柄のピコピコサンダル、川に流してまでお前を助けたんだぞ!」

「ちょっと黙っててよ」

「返せ! オレのピコピコサンダル!」

「ちょっと黙っててったら!」


あたしは頭を抱えて、その場に勢い良くしゃがみ込んだ。

うるさいわね! ちょっと静かにして!!


「なによ! ピコピコサンダルごときで!」

「な、なんだとお!?」

「こっちはね、人生の一大転機を迎えてる瞬間・・・のような気がするのよ!」

「はあ!? なんだよそれ!?」

「だからそれを今整理してるんだから、黙ってて!!」


凄みの効いた怒声一発、腹の底から搾り出す。

その気力に呑まれて大地はすっかり黙り込んだ。

あたしは心と頭のグルグルパニックを沈めながら、冷静に考える。


つまり、つまり・・・

あたしの命の恩人。運命の王子様。10年経って再び巡り合った、奇跡の人。

それってつまり、柿崎さんじゃなくて・・・

目の前の、この・・・


大地だったの・・・??


あたしはゆっくり頭を上げて、大地を見上げる。

あたしが好きな人を。

あたしが想っている大地を。


ずっと柿崎さんが運命の相手だと信じてた。

10年間、ずっと。

でもそれは間違いだと気付いた。

そう。間違いだった。

当然だ。


だって・・・

だって、あたしの本当の運命の相手は・・・


相手は・・・・・



「よっしゃあ―――――っ!!!」

「うわあ!? なんだあ!?」


思いっっきり飛び上がる。

コブシを高々と天に向けて、ガッツポーズ!

よおぉぉーしぃ! 来たキタキタ――!!


後ずさりしながら恐々とあたしを眺めてる大地。

そんな大地を、歓喜に満ちた思いであたしも見詰め返す。


「なんだよいったい!?」

「なんでもない!!」

「なんでもないわけないだろっ!?」

「大丈夫だから気にしないで!!」

「気にする! 普通は気にする! 絶対する!」

「いーからいーから!!」


あたしは大地の腕を引っ張った。


「ほら、早く行かないとカフェで皆が待ってるよ!」


満面の笑顔のあたしを気味悪そうに見てる大地。あたしに引っ張られて、しぶしぶ歩き出す。

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