運命と勝負と奪還(1)
その後。
意外なほどに、話はとんとん拍子にまとまった。
お姉ちゃんと柿崎さんは、めでたく結婚する事になった。
ふたり共、民宿『山神』から戻ってきて、改めて結婚の意志と承諾を願い出た。
それをお母さんとおじさんが了承して。晴れて親の祝福のもとに結婚が決まった。
お母さん達もさすがは苦労人。
いざ決断してアクセルを踏み出すと、その馬力はすごかった。
さっさと近所の神社に話を通し、身内だけで式を挙げた。
そしてカフェで小さな披露宴パーテイー。素敵な夫婦が誕生した。
親戚の中には
「ちゃんと盛大な式と披露宴を挙げてこそ、立派な社会人としての・・・」
とか何とかウルセー事を言い出すジジババ達もいたけど。
そこはお母さんとおじさんが、馬力で蹴散らした。
式や披露宴の大きさなんて関係ない。
だって、白無垢やウエディングドレス姿のお姉ちゃんは・・・
史上最高、最強無比に、素晴らしく綺麗で幸せそうだったから。
でもその後、お姉ちゃん達ったら・・・
式と披露宴を終えた安心感で、うっかり忘れてしまったの。
婚姻届の提出を。
しかも、一週間も。
いかにもお姉ちゃん達らしくて、あたしも大地も大爆笑したけど。
お母さんとおじさんは大激怒。
「あんた達にはもうしばらく躾が必要ね!」
「孫が生まれるまでに、鍛え直す!」
そう言って、お姉ちゃん達の新生活のサポートをし始めた。
カフェの運営とか、お姉ちゃんの体調管理とか。手出し口出し好き放題。
実にイキイキと干渉しまくってる。
「結局、まだ親離れも子離れもできてないわけねぇ」
花梨ちゃんがそう言って笑ってた。
まぁつまり、双方、妥協点を見つけて落ち着く所に収まったんだね。
それでうまく回ってるなら、それにこした事はない。これでいいんだと思う。
「いいって言ったって、しっかしなあ・・・」
「なによ?」
「お前の母さんの今度の新メニュー、なんだよありゃ」
大地とふたり、学校帰りに肩を並べて歩く。
式からしばらく経つけど、やっぱりそっち系の話題になってしまう。
「なにって、サバの味噌煮と、ふろふき大根と、ひじきの煮物?」
「カフェだぞ? カフェ。お前の母さんってどこ目指してんだよ?」
「いーじゃん別に。好評なんだから」
お姉ちゃんのつわりが始まって。
台所仕事が出来なくなってしまったの。
で、代わりに張り切って登場したウチのお母さん。お持ち帰りOKの和食メニューを作って販売し始めた。
これが近所の一人暮らしの男性や主婦に好評で。見る間に売り上げアップ。
カフェの業績は右肩上がりに上昇中だ。
「お母さん、料理上手なのよ。お姉ちゃんの師匠なんだから」
「でも、一応カフェだぞカフェ・・・」
「いーじゃないのよ、細かいわねーもー、いちいちさぁっ」
「先輩がネパールから帰って来た時は定食屋になってそうだな・・・」
あ・・・・・
あたしは思わず足を止めた。
ここ。この場所。三丁目の駄菓子屋の向かい。
このドブ川。
思い出のドブ川だ。
もう今ではすっかり整備されてしまって、勢い良く透明な水が流れてる。
あの頃の面影は無いけれど、でもやっぱり感慨深いなぁ・・・。
立ち止まってしみじみ眺めていると大地が不思議そうに聞いてきた。
「おい、なにしてんだよ?」
あぁ・・・そういえば。大地にはまだ何も話してなかったけ。
「実はさ、あたしここで10年前、柿崎さんに会ってるんだよ」
「はあ?」
「10年前、あたしここに落っこちたの。それを助けてもらったんだよ」
ポカンとしてる大地をあたしは苦笑いしながら見た。
うん。確かにすごい偶然でしょ?
あ、それとも呆れてる?
そーよ、ドブに落っこちるドン臭い子どもなんて、あたしくらいのもんですよ。
でもいいでしょ?
それも今では様々な紆余曲折を経て、ヘドロすら美しい思い出の・・・
「・・・お前?」
「え?」
「あれ、お前か?」
「へ??」
「あん時のドブに落ちてたヤツって、お前かっ!?」
「へえ???」
大地は人差し指をあたしに向かってビシッと指して、叫んだ。
「あの時オレが助けたヤツって、お前だったのか!?」
・・・・・・・。
へええぇぇぇっ!!? オ・・・オレが助けたって??




