(13)
家族だからって言わなくても考えが伝わるわけじゃないんだよなぁ。
まぁ、当然だよね。
言ってもいない頭の中の事を、言い当てられたらそりゃ怖いわ。
言わずに伝わるってのは日本人の美意識だけど。
言葉にする事だって大事だよね。うん。
「過去をやり直せたとしても、お母さんは当然お父さんと結婚するわよ!」
お母さんが、ふふんと楽しげに笑う。
「そうしなきゃ一海にも七海にも会えないじゃない。そんなの絶対嫌よ。それに・・・」
「それに?」
「愛してるもの、お父さんを! ただ一人の運命の人よ!」
お母さんは吹っ切れたのか、ニコニコしながらそんな風にノロケた。
うわあ、お母さんてば臆面もなく・・・。
ノリノリじゃん。
あたしはなんだかくすぐったい気持ちになる。
お、親のノロケ話って、この年で聞くとさすがに小恥ずかしいかもっ。
自分で聞いといて、なんだけどさ。
いや、嬉しいんだけどね。もちろん!
「大地、父さんだって母さんが運命の・・・」
「いい。その先は言わなくても分かる」
「大地、言葉にするという事も大切な・・・」
「いーから! それよりも・・・」
おじさんのセリフを容赦なくぶった切って、大地は質問した。
「未来が見えていても結婚するのか? 母さんが病気で死ぬのが分かったうえで?」
その言葉にあたしはハッとした。
そして恐る恐るお母さんを見る。
そうだ。お父さんが事故で死んでしまうのを知ってても・・・。
それでもお父さんと結婚するの?
お母さんとおじさんは顔を見合わせて・・・
そして、声を上げて同時に笑った。
「するわよ、もちろん」
「するさ、もちろん」
な~んの問題もなさそうなその声に、かえってこっちが慌ててしまう。
「え? す、するの??」
「なに? しちゃいけないの?」
「いやいや! 全然いけなく無いよ!」
いけなくは、ないんだけど。でも・・・。
「心配はいらないわよ。お母さんがお父さんを死なさないから」
「そうだ。父さんが母さんを守ってみせるさ」
「運命が分かってるなら、そうならないように頑張ればいいだけの話よ」
そう言って、また気楽そうに笑うふたり。理屈で言えば、確かにその通りなんだけど。
でも運命って大変だよ? なかなかに手ごわい相手だよ?
あたしはそれを身を持って知ったんだ。
明日何が起こるか分からない。
分かってるハズの予測すらも覆る。
そんな力技で襲い掛かってくる相手に、どうやって・・・。
「分からないからこそ、よ」
「予測が覆るって事は、未来はどうにでも変化するって事だ」
「なら、こっちの良いように変えればいいのよ。力技で」
お母さん・・・おじさん・・・
「望む運命に変えてみせるわよ」
「そのための努力を全力でする」
「怖気づいてお父さんやあんた達を諦めるなんて事、絶対にしないわ」
「ああ、そんな事絶対にするものか」
運命は強大無比だから
ひょっとしたら太刀打ちできないかもしれない。
頑張ったところで・・・
その努力は報われないかもしれない。また悲劇に見舞われるかもしれない。
泣くかもしれない。
苦しむかもしれない。
でもそれは・・・
あくまでも『かもしれない』だけ。
『かもしれない』だけの事に怖気づいて、逃げ出したくない。
起きるか起きないかも分からない不確かな未来を恐れて、この大切な物を諦めたくない。
諦めるくらいなら、飛び込んで戦う。大切な物のために。失いたくない物のために。
だって・・・
それほどまでに
かけがえのないほどに
愛するものを見つけてしまったんだから・・・
「お母さん・・・」
「父さん・・・」
向こうから、声が聞こえた。
ずっと・・・今までずっと、ひと言も話さなかったお姉ちゃんと柿崎さん。
ふたりが並んで正座して、お母さんとおじさんを見てた。
まっすぐに。
そして、その眼差しに負けないくらいにまっすぐに
「あたし達も同じなんです」
「それほど愛するものを見つけてしまったんです」
手を握り合いながら、静かに、そう言った・・・。




