(2)
運命の王子様が、十年の時を経て、いま
あたしの目の前に立っている・・・。
「・・・はあ???」
花梨ちゃんが顔を歪めながらあたしに聞き返した。
あんた何バカなこと言ってんの?って表情。
無理もない。
そんな、あたしだってそんな・・・まさか王子様が、ここに・・・。
なんで? なんで??
なんでここにいるの??
だってだって、十年間も会えなかったのに!
「な、七海ちゃん?」
必死な表情で、口をパクパクさせてるあたしの様子を見て、さすがに花梨ちゃんが心配しだした。
「大丈夫?」
「お、王子様、おうじさま」
「勘違いじゃない? 人違いでしょ?」
「ちがうぅっ。間違いないぃっ」
「ね、七海ちゃん。とりあえずちゃんと呼吸しようね」
あたしはブンブン首を横に振った。
いや、呼吸したくありませんって意味じゃなくって!
間違いないよ!
勘違いじゃ・・・
勘違いじゃないんだよっ!!!
王子様だよっ! 彼なんだよっ! 彼なんだよ―――っ!!!
絶対、絶対! 王子様だっ!!
忘れない。あの顔。十年、夢に見続けたあの顔。
あの顔が、十年分成長して・・・
今、ここにいるっ!!
全財産、ううん、そんなチンケなものじゃない。あたしの命賭けたって、いい。
彼は王子様だ―――!!
「七海、ちゃん・・・?」
ぴくん・・・。
あたしの体が反応した。
だって・・・
今、あたしの名前を呼んだのは・・・
「七海ちゃん、だよね?」
「・・・・・」
あたしは、ゆっくりゆっくり後ろを振り返った。まるで怖いものでも見るみたいに。
「やっぱり七海ちゃんだ」
ニコリと微笑む優しい笑顔。あの時の笑顔とピッタリ重なった。
覚えてて、くれた、の?
あたしの、ことを・・・。
やっぱり覚えててくれたんだ!
スラリと伸びた背。あの時より肩幅が広くなってる。
少しだけ茶色な髪が素直そうに自然に流れている。
どちらかと言えば色白な肌。そして涼しげな、優しい声・・・。
あたしの名前を呼んでいる声・・・。
やっぱり間違いないんだね? そうなんだね?
一生会えないって思ってたのに・・・。
王子様、なんだよね。
ばくんばくんする心臓。素敵な笑顔を見つめたまま、まばたきもできない瞳。
相変わらず声がでない口。
固まったまま動かないあたしを見て、王子様が心配そうに話しかけてきた。
「あの、七海ちゃん?」
「・・・」
「あの、ひょっとして・・・」
「・・・」
「僕の事、知らないかな・・・?」
「・・・・・!」
ぐおおぉぉっ!
突然、あたしの全身に力が舞い戻った!!
し・・・知っ・・・
「知ってますうぅぅぅ――っ!!!」
当然でしょう!?
たとえ・・・
たとえ親の顔を忘れる日が来ようとも、あなたの姿だけは記憶から消え去る事はありません!
その点だけは譲れません!!
「そ、そう? 良かった」
噛み付くような勢いで復活したあたしに、王子様は少々ビビる。
「七海ちゃん、なんだか不思議そうに僕の事を見つめてたから」
「それは確かに、不思議は不思議なんですけど!」
「不審者だと思われたかと・・・」
「そんな事、夢にも思ってません!」
王子様が不審者なわけないじゃん!! だって王子様なんだから!!
「そう?安心したよ」
「はいっ! どうぞ思いっきり御安心を!」
「よかったら座らない? お友達も。ここね、カフェなんだよ」
「知ってます! 看板、見ましたっ」
「へえ、良く見つけたねえ」
「はいーっ! 我ながら本当にそう思います!」
ほんっっっとに、そう思う。よくぞ見つけたぁっ! 偉いぞあたし!!