(8)
あれからもう三日。
結局、お姉ちゃん達は帰って来るでもなく。
連絡も無かった。
ひょっとしたらと期待してた分、失望も大きくて。
お母さんもあたしもどんどん元気が無くなる。
お母さんは肩を落としてボウッとしたり・・・妙に真剣な顔で思い詰めたり。
めっきり食欲も落ちてしまった。
あたしも全然食欲が無い。
だって・・・ご飯を見るとお姉ちゃんを連想しちゃう。
お姉ちゃんの手作りじゃない料理。侘しくて寂しくて味気なくて、とてもノドを通らない。
学校帰り、大地と二人でカフェに寄った。
淡い期待と共に玄関を開けて、無人の店内にガッカリする。
その繰り返し・・・。
向かい合ってイスに座り、つい、お互いの顔を見ながら溜め息をつく。
「やっぱり帰ってきてないね」
「帰ってないな」
「大地、どこか心当たり無い? 柿崎さんの思い出の場所とかさ」
「ないな。男兄弟って、あんまそういう話はしねえんだよ」
「そっか・・・」
「七海こそどうだよ? 仲良いんだろ?」
「お姉ちゃんの大切な場所? それこそカフェしか思い当たらないし」
「そうか・・・」
「それに、仮に思い当たってもアテにならないよ」
「なんでだよ?」
「札幌に向かうつもりで、四国の徳島に突き進むような人だもの。お姉ちゃんって」
「・・・そりゃまるっきりアテになんねえな」
さらに深~く溜め息ひとつ。
やっぱりどうしても考えてしまう。こんな事になったのって、あたしの責任だって。
そう思うのに何も出来ない。責任の取りようが無いんだ。
お願いお姉ちゃん、どうか帰ってきてよ・・・。
ちゃんとご飯食べてるかな?
熱出してないかな?
吐いたりしてないかな?
水分補給してるかな?
お姉ちゃんの飲めるイオン飲料水って、種類が決まってるんだ。
柿崎さん、それ知ってるかな? ちゃんと買ってこれるかな?
とめどなく心配事が湧き上がる。気持ちが沈んで悲しくなってしまった。
それを察した大地が、優しく頭をなでてくれた。あたしも弱々しく笑顔を返す。
ありがとう、大地。
でも・・・もう三日も音信不通だし。そろそろ限界かも・・・。
その時突然、思い切り良く玄関の扉が開いた。
お姉ちゃんっ!!?
振り返ったあたしの目に映ったのは、息を切らして駆け込んできた花梨ちゃんの姿だった。
「なんだ、花梨ちゃんか・・・」
「なんだ、お前か・・・」
「ちょっと! ふたり揃って失礼ね!」
はぁはぁと息を吐きながら、花梨ちゃんが怒鳴った。
「せっかく一海さんからの手紙を持ってきてやったのに!」
ガックリしてたあたしの心は、その言葉で一気に急上昇した!
手紙!? お姉ちゃんからの手紙!? どういうこと!?
大地も目を見開いて花梨ちゃんを見ている。
「家に帰ったら、あたし宛てに届いてたのよ。もう、あたしもビックリ」
「な、なんで花梨ちゃんに!?」
「そうだ! なんでオレじゃねえんだ!?」
「あんたに届くわけないでしょ。一海さん、さすがに自宅に書くのは気が引けたのよ。きっと」
もうお姉ちゃんったら水臭いんだから! そんな心配も気遣いも無用なのに!




