(7)
素直に感謝の言葉が出てくる。
大地の優しさ、心の大きさ。それを感じるたびにどんどん惹かれていく。
『なんだよ、やたら素直だな』
「あたしは生まれつき素直よっ」
『駆け落ちのショックで毒気抜けたか?』
「毒なんか持ってないってば。フグじゃあるまいし」
『そういやお前、フグに似てるなあ!』
「なんだと――っ?」
笑い合う。
そしてあたしは、どんどん大地を好きになる。
好き。好き。好き。好きだよ大地。
「ねぇ、大地・・・」
『なんだ?』
好きだよ・・・。
「・・・電話ありがとう。もう休むね」
『おう。また明日学校でな』
「うん。また明日ね。おやすみなさい」
あたしはスマホをギュッと胸に抱きしめる。大地の名残を、温もりを感じ取るように。
そしてそのままベットに倒れこんだ。熱い溜め息が、繰り返し吐き出される。
いっそ好きって言ってしまいたい。
でも、言えない。
お姉ちゃんに恋してる大地には。
また明日。大地にまた明日会える。その湧き上がる喜びと幸福感!
そして・・・
叶わない想いの、締め付けられるような苦しい切なさ。悲しみ。
お姉ちゃんの件の心配事も混じり合って、あたしの心はパンク寸前。
もう胸が破裂してしまいそう・・・。
不意に再びスマホが振動する。あたしは慌てて電話に出た。
『もしもし七海ちゃん?』
「花梨ちゃん?」
『七海ちゃん、お元気?』
「・・・・・」
つい、噴き出してしまった。
急に改まって「お元気?」って聞かれてもなぁ。
ふふ。これも心配して電話してきたクチね。・・・ありがと花梨ちゃん。
あたしの心は、大地の時とは違う温かさで満たされる。
「んー。大部分は元気っぽいけど・・・」
『なによ。どうかしたの?』
「色々と複雑でさ。もうグチャグチャ」
『へえ?』
「絵筆を洗い終えたバケツみたい。結構すごい事になってる」
『大地の事も絡んでるね?』
「・・・鋭い」
『いいよ。話してスッキリしなさいよ』
「付き合ってくれる? 長丁場になりそう」
『恋愛話にはお付き合いするのが、女子同士のルールとマナーなんでしょ?』
へへ・・・そうでした。ではお言葉に甘えて。
本当にありがとう花梨ちゃん。
あたしはベットに寝そべったまま、胸の内のぐちゃぐちゃを吐き出し始める。
花梨ちゃんは何を指摘するでもなく、ただフンフンと聞いてくれる。
その声を聞いて、あたしは癒されていく。
女の子同士の夜が更けていく。
お姉ちゃんのいない部屋で。
弱音吐いたり、唇を尖らせたり、笑ったり。
後悔とか反省とか、やるせなさとか心配とか。
感謝だとか、ありがたさとか。
様々なものが心に生まれて育っていくのを感じながら・・・
あたしは、穏やかな眠気を感じ始めていた・・・。




