運命の再会(1)
「それにしても誰もオーダーとりに来ないわねぇ」
「・・・花梨ちゃん、人のお話聞いてます?」
「あー聞いてる聞いてる。もう聞き飽きてるぐらい聞いてる」
「冷たい反応・・・」
「あぁ、のどが渇いたなぁ」
勝手に自分の世界にひたってろってかい?
んもー、花梨ちゃんって薄情!
切ない初恋に身を焦がす親友を、慰めようとか力になろうとか普通だったら考えるだろうになぁ。
でもまあ、力になろうにもどうにもできない事だけどさ。
きっとこのまま、あたしはずっと彼を想い続けるんだろうな。
想いのかなわぬままに・・・。
・・・。
・・・・・。
しかし・・・。
確かに誰も来ないなーっ。
お店で、ここまでほっとかれるっつーのは、ちょっとなー。
「カウンターもないね」
「向こうに扉があるよ。その奥かな?」
「そこトイレじゃないの?」
「ちがう。トイレはこっち」
ふたりでしばらく扉をながめて・・・。
「すみませーん」
「ごめんくださーい」
ちょっと遠慮がちに声をかけてみたりして・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
「来ないね」
「留守かな?」
「カギもかけずに? それはないでしょ」
「どうする? 帰る?」
「うーん。でもせっかく入ったんだし」
帰っちゃうのは、もったいない気がする。
「それに帰るにしたって、ここがどこだか分かんないもん。お店の人に聞かなきゃ帰れないよ」
「すみません、ここどこですか?って? ハァ・・・恥ずかしい・・・」
「しょうがないよ」
あたしは席を立ち、奥の扉に近づいた。
「ちょっと七海ちゃん、開けるつもり?」
「ちょっとだけ」
「やめときなって」
「でも立ち入り禁止、とか書いてないし」
「開けた途端に、お店の人がお着替え中、とかだったらどーすんの」
「謝る」
「あのねー・・・」
なんかあったら謝りゃいいや。
お店なのに呼んでも出てこないんだから、どっちもどっちでしょ?
あたしはドアのノブに手を掛けた。
その途端に・・・
―― ゴンッ!! ――
・・・って
オデコに扉をぶっつけられました・・・。
あたしが開けようとした瞬間、向こうから扉が開いたの!
なんつータイミングの良さったら! 実は向こうから見て狙ってたんじゃないの?!
痛いやら恥ずかしいやら・・・むおぁっと怒りがこみ上げてくる!
花梨ちゃんの「ブッ!」って噴き出す声が聞こえた。
ひどーい! 人の不幸を笑うなんて!
・・・まぁ、確かに立場が逆だったら、あたしも笑うけどさ!
「え? わあっ?! すみません!!」
扉の向こうから男の人の慌てた声が聞こえてきた。
「まさか人がいるなんて思わなくて・・・!」
・・・・・
むおわぁぁっ・・・!
『人がいるなんて思わなくて』?!
ちょっと! あんたねー! ここカフェでしょ?!
店なんだから客の出入りくらい考えなさいよ!
世の中、いろんな人間がいるんだからっ!
店の奥の扉を勝手に開けようとする女子高生だっているんだからねっ!!
客商売なら、そこらへんをちゃんとわきま、え、て・・・
「・・・・・」
「本当にすみませんでした」
「・・・・・」
「ケガしませんでした? ごめんなさい」
「・・・・・」
「あの・・・?」
「・・・・・」
「そこ、どいてもらえますか?」
「・・・・・」
パカリ、と開いた口が、ふさがらない。両目もぎょろっとデッカく開いたまんま。
あたしは立ち尽くした。
どうしようもない。
目も口もふさがんない。
それどころじゃないどうしよう。
「七海ちゃん?」
花梨ちゃんの不思議そうな声が聞こえて、ハッと意識が瞬間的に戻った。
あたしは救いを求めるように花梨ちゃんのもとへ駆け寄る。
「どうしたの?」
「花梨ちゃん、どうしよう」
「だからどうしたのよ?」
「どうしようどうしようどうし・・・」
「七海ちゃん、ヘンなとこ打った?」
花梨ちゃんの服のエリを、ギュッとつかむ。そして上下に思い切りグイグイ揺すった。
「ちょ、七海ちゃんやめてよ!」
「おうじさま・・・」
「え? なに?」
「王子様・・・」
「え??」
あたしは精一杯、息を吸って肺に空気を溜めた。
そして、震えるかすれ声で花梨ちゃんの耳元にささやいた。
「あの人、王子様だ。十年前の、あたしの命の恩人の・・・」