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「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」


沈黙。


さっき閉店の張り紙を見た時は、とっさに大声が出たけれど。

今回は、もう、衝撃デカすぎて。

突き抜けてしまって逆に落ち着いてしまった。


どう対処すればいいか判断がつかないって事もあるけど。

全員、まず何をしゃべればいいのか、何をすればいいのか、まったく理解不能。


「えっと・・・」


まず花梨ちゃんが口火を切った。手紙を指差して首を傾げる。


「・・・駆け落ち?」


大地があたしと花梨ちゃんを交互に見る。固まった表情で。

大地も突き抜けてしまったのか、妙に落ち着いて見える。


「・・・確かに駆け落ちって書いてあるな」

「一海さんとあんたのお兄さんが? 駆け落ちを?」

「そう書いてあるな」

「しちゃったの? 決行しちゃったって事? 駆け落ちを?」

「そうらしいな」


あたしはその会話を聞きながら、のろのろと頭を回転させる。

えぇっと・・・駆け落ち。駆け落ちね? あれ? ちょっと、ねぇ・・・


「駆け落ちって、なんだっけ?」


あたしの質問に、ふたりが注目する。


「七海ちゃん、駆け落ちは駆け落ちでしょう」

「それって小旅行って意味だったっけ??」

「おいしっかりしろ。現実逃避すんなよ七海」


ふたりに言われて、もう一度頭を働かせる。駆け落ち。それは・・・

親に結婚を反対された男女が、手を取り合って逃避行するっていう事柄よね。

やっぱりそれで正しいのよね?


じゃあ・・・


・・・・・


ええええ――――っ!!!?


「お姉ちゃん、柿崎さんと一緒に家出しちゃったのおっ!!?」


手紙を引っ掴んで食い入るように読んだ。

書いてある! 確かに駆け落ちって書いてある!

その事実にあたしはようやく本気を出して慌て始めた。


「どうしよう! お姉ちゃんがいなくなっちゃった!」

「ああ、そうだな」

「どこに行ったの!?」

「オレだって分からねえよ」

「分からないって、それじゃどうすんのよ!?」


ああぁぁぁ・・・

本当にどうしよう! あのお姉ちゃんが家出しちゃった!

しかも駆け落ちなんて思い切った行動するなんて! いくら結婚を反対されたからってそんなあ!


とてもこれが現実の事とは思えない。

夢見てるわけじゃないよね? 集団催眠とか。


恋をすると、脳内にドーパミンが大量放出されるって聞いた事があるけど。

・・・恐るべしドーパミン!


ひたすらオタオタするあたしの横で、大地が深い深い溜め息をついた。


「兄貴、やたら暗い、思い詰めた顔してたもんなぁ・・・」

「就活してんのかと予想したけど、外れたわねぇ」

「そういう、ポジティブな方向に向かうタイプじゃねえんだよ。ウチの兄貴は」

「ある意味ポジィティブよ。前後の見境の無さは七海ちゃんといい勝負ね」

「ちょっと花梨ちゃん! なに冷静に状況分析してんのよ!」


駆け落ちだよ!? 駆け落ち!! 小旅行に行ってるわけじゃないんだからね!?

そこんとこ分かってるの!? ちゃんと現実見えてる!?


「あたしだって心配してるわよ、これでも。なんせあの一海さんだもの」


花梨ちゃんのその言葉に、あたしの不安と焦燥感はさらに倍増した。

そうなんだよ! なにせあのお姉ちゃんなんだよ!

自宅と病院と、近所のスーパー以外の世界をほとんど知らないお姉ちゃん。

そのお姉ちゃんが、いきなり社会に放り出されてしまった!


体調だって、すぐ崩すのに! しかも今、お腹の中に赤ちゃんがいて・・・

それが身体にどんな影響を及ぼすのか分からないのに!


手紙に何度も書かれている謝罪の言葉。


『七海、ごめんね、ゆるしてね』


お姉ちゃんの顔が浮かぶ。そういえば何度もそう言ってあたしに謝っていた。

あの謝罪はこういう事だったの? もうすでに駆け落ちする事を密かに決めていたの?


・・・・・お姉ちゃんのバカ!!

こんなに心配させて!! 謝っても許してあげないから!!


「しかも一緒に行動してるのがウチの兄貴ときたもんだ」


大地が呻くような声を出す。


「あんたのお兄さんも現実適応能力は低そうね」

「ああ。自慢じゃないけど低い」

「感情と義憤で突っ走ったわけか。ホント七海ちゃんといい勝負」

「ろくに金も持ってないはずなのにな・・・」

「ちゃんと生きていけるの? 今日から」

「・・・断言も安心もできない」


ぜ・・・前言撤回!

今すぐ許すから、帰ってきてお姉ちゃん―!!

そもそもあたしが余計な事して追い詰めちゃったんだもん。許すも許さないもないから!


「そこまで心配しなくても大丈夫よ、七海ちゃん」


この中で一番冷静な花梨ちゃんが、そう言って肩をすくめる。


「生きてけないと分かった時点で、すぐ帰ってくるでしょ。そこまでふたりはバカじゃないわよ」

「バカじゃないけど方向オンチだよ!? 帰って来れる!?」

「兄貴がいるんだからその点は大丈夫だろ」

「ドーパミンの分泌も3年以内で切れるらしいしね」

「3年も帰って来なかったらどうすんの!?」

「だからその前に帰ってくるってば。・・・ただ」


花梨ちゃんが難しい顔で腕を組んだ。


「不安要素は、一海さんの体調よねぇ・・・」

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