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・・・と。


威勢良く、歩き出してはみたものの・・・


「七海ちゃん」

「え?」

「遅い!!」

「・・・すみません~・・・」


あたしの歩みは、カフェが近づくにつれてどんどん遅くなる。

気が重い~、足が重い~、鉛のごとくにぃ~~。

結果、大地と花梨ちゃんから大きく離れてしまった。

うぅ、ヘタレですみません・・・。


「ん・・・? おい、あれ見ろよ」

先頭を歩いている大地がカフェの方を指差した。


「どうかしたの?」

「玄関に張り紙がしてあるぞ」

「あんた目がいいわね。あたし見えないわ」

「ほら、白い紙が・・・」


紙? どれどれ?


小走りにカフェに向かう。

確かに玄関に張り紙がしてある。

なんだろ? ひょっとして今日は臨時休業にしたのかな?


みんなで紙に書いてある文字を読んだ。

えーっと・・・なになに?


『突然ですがカフエ どりーむは閉店いたします。長らくのご愛顧、誠にありがとうございました』


・・・・・


・・・・・・・


はあああぁぁあっ!?


へ、閉店―――――っ!?


閉店!? 臨時休業じゃなくて、閉店!?


あたしはもう一度張り紙を読んだ。

間違いない! 閉店って書いてあるっ!! こ・・・これっていったいどーゆー事よ!?


「大地! 柿崎さんから何か聞いてた!?」

「聞いてねえ! なんっも聞いてねえよオレ!」

「いったいどういう事!? 閉店って!?」

「店閉めるって事だろ!?」

「それくらいあたしにだって分かるって!」

「分かるならいちいち聞くなよ!」

「ちょっとふたり共うるさいでしょ。ここ住宅街なんだからね」


向かい合ってギャンギャンわめくあたし達に、花梨ちゃんが冷静に諭した。


「あんた、ここのカギ持ってるの?」

「あ、ああ持ってるぜ」

「だったら張り紙の前で咆哮してないで、さっさと開けなさいよ」

「お・・・おうっ」


大地が慌ててカギを取り出す。

あたしはもう、驚いてしまって・・・。

さっきまでの重い気分もへったくれも、完全にぶっ飛んでしまった。


お店、閉めるって・・・

柿崎さん、親友に託された大切なお店なのに・・・。


「その親友って、スロヴェニアだかウズベキスタンだかに行っちゃったって変人でしょ?」

「カンボジアだよ花梨ちゃん」

「ネパールだ。七海」

「あんたのお兄さんもいい加減、目が覚めたんじゃないの?」


そ、そうなのかな?


「稼ぎの事で、七海ちゃんのお母さんに手酷く言われたんでしょ? 心機一転、就活してんじゃないの?」


そう・・・かもしれない。それで一気に目覚めの時を迎えたとか??

ありえるよね?

じゃあ・・・これって、喜ぶべきこと?


カフェを諦めてしまったのは、柿崎さんにとって残念な事だろうけれど。

これでちょっとは明るい兆しが見えてきたよね?

安定した収入があればお母さんを説得しやすくなるし。


そっか。柿崎さんもちゃんとこれからの事を考えてたんだ。


柿崎さんの親友には申し訳ないけど。元々、お店を放り出したのはアッチが先だし。

文句言われる筋合いも無いっていうか。

もう彼にはこの際、カフェの事は忘れて存分に天命に没頭してもらうということで。


カギを開けて店の中に入った。

やっぱり柿崎さん、いない・・・。

シンと静まり返っている店内をキョロキョロ見回す。


・・・・・ん?


玄関に一番近いテーブルに、便箋が置いてあった。


「・・・・・」


みんなで引き寄せられるようにそれに向かう。

頭を寄せ合い、手紙を読んだ。



大地へ


僕は決心した。

一海を連れて、駆け落ちする。


ずいぶん悩んだけれど、もうこれしか道が無いんだ。


どうか分かって欲しい。

一海と子どもを守りたいんだ。どうしても。


許してくれ。


そして、探さないでくれ。


子どもが無事に生まれたら連絡する。

それまでどうか、そっとしておいてくれ。



七海へ


ごめんね七海。

お姉ちゃんの我がままを許してください。


どうしても諦められないの。

どうしても、拓海と赤ちゃんだけは譲れないの。


どうか許して。


許してください。


ごめんね、ごめんね。


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