(7)
お姉ちゃんが慌てて場を取り繕おうとする。
「お母さん! 拓海にそんな失礼な事・・・!」
「お母さんだって、こんなこと言わないで済ませたかったのよ!」
「じゃあ言わないでよ!」
「あんた達があんまり夢ばっかり見てるから、言わなきゃならなくなったんでしょ!」
「・・・・・」
「彼は、病気がちのあんたと子どもを、どうやって食べさせていくつもりかしらねぇ?」
「お母さん・・・」
「そのお金はどうやって稼ぐのかしらね?」
値踏みするように柿崎さんを見上げるお母さん。
お姉ちゃんは悲しそうな顔をした。そして唇を噛んで俯いてしまう。
お金、お金、お金。
自分の親の口から、そんな言葉を聞いて喜ぶ子どもはいないと思う。
あたしだって正直、悲しい気持ちだ・・・。
でも、あたし達は身をもってよく知っている。
生活には、お金が必要だって事。
お母さんは、お父さんが死んでからそれでどれほど苦労した事か。
愛はお金じゃ買えない。
それは確かな事実だ。
でも、生きていくにはお金は絶対必要なんだ。絶対に。
それは確かに現実なんだ。
お母さんがさんざん言っていたこと。
『現実を見ろ』
「一海を安心してまかせられる経済力のある男じゃなきゃ、結婚させられないの」
「・・・・・」
「悪いけど柿崎さん、あなた程度の男じゃ無理ですよ」
「桜井さん、それは聞き捨てなりませんね」
おじさんが、明らかに・・・明らかに、怒りを含んだ声で反論してきた。
うわぁ、完璧に怒ってるよ。さ、さらにヤバい状況に陥ってない?
「拓海程度、とはどういう意味ですか?」
「あら失礼。息子さん程度の稼ぎ、という意味ですよ」
「同じ事でしょう? 人の息子に対してなんて失礼な言い草ですかっ」
「さっきご自分で同じ事を息子さんにおっしゃってたじゃありませんかっ」
「自分で言うのと他人に言われるのでは、まったく違います!」
「なにを勝手な事を言ってるんですか!」
うわ・・・再び、親同士のバトルが再燃っ。今度はさっきよりもかなり熱い戦いだ。
はっきりとお互いに嫌悪感むき出しで言い争っている。
男にとって稼ぎってのは、プライドにかかわる問題らしい。
それも、かなり。
その点で息子を貶されたおじさんは、完全に頭に血がのぼってしまっている。
「こう言ってはなんですが、お宅の娘さんだってまともな身体じゃないでしょう!?」
「なんですってっ!?」
お母さんが金切り声を上げた。
あたしも、おじさんの言葉にピクンと反応してしまった。
まともな身体じゃ、ない・・・?
・・・なにそれ。
「と、父さん! 一海になんて事を・・・!」
「父さんだってこんな事、最後まで言いたくなかったんだぞ!」
「父さん・・・」
「母親に病気で寝込まれたらどんなに大変か、お前が一番よく知っているだろう!?」
「それは・・・」
「まして死なれたら、どれだけ大変な思いをする事か!」
柿崎さんは悲しそうにうつむいた。
・・・その言葉を身に染みて実感しているからだろう。
あたしの隣の大地からも、悲しげな空気が伝わってくる。
大地達のお母さんがなんで亡くなったのかは、聞いた事がなかった。
病気、だったんだろうか。やっぱり身体が弱かったんだろうか。
お姉ちゃんのように。
そして・・・亡くなってしまったんだろうか。
「父さんはな、拓海に普通の娘さんと結婚して、普通に生きて欲しいんだよ。ただ普通を望んでるだけなんだ」
切々とおじさんは訴える。
やたらと『普通』を強調しながら。
感動的なシーンなんだろうけどさ・・・。
なんだかいちいち引っかかりを覚えて、イラつくんですけどねぇっ。
「柿崎さん、うちの一海が『異常』だとでもおっしゃるんですか!?」
お母さんが噛み付いた。
・・・そうだよ! 普通ってなによ普通って! お姉ちゃんが普通じゃないって言いたいの!?
失礼なオヤジねっ!
「だいたいなんですか!? まるで人の娘がさっさと死んでしまうみたいな言い方して!」
さっきの自宅での言い争いで、自分が言った事を完全に棚に上げてるお母さん。
お母さんも、似たようなこと言ってたんだけど・・・。
でも、この際それはなかった事にしよう!
そうだ! 自分で言うのと他人に言われるのとじゃ、全然違うんだ!
お母さん、いけっ! オヤジに負けるな!
「私はただ、息子に普通に幸せになって欲しいだけです!」
「だから『普通』ってなんなんですか!?」
「それじゃ、お宅の娘さんが普通の身体だと思ってるんですか!?」
「うちの子は普通ですよ!」
「そんな風に思っているのは、あなただけですよ! あなたの娘は普通じゃない!」
「なんですって!?」
なんだとおぉ―――っ!?
あたしは、かあぁ!っと頭が熱くなった。
こ・・・
このオヤジ・・・!
いっぺんシメたろかあぁっ!!




