(4)
「・・・もしもし大地っ!!?」
『一海さん、来たぜ』
やっぱり!? 修羅場に爆弾突入っ!?
『早く来てくれ。時限爆弾が爆発寸前だ』
あぁ! お姉ちゃん――っ!!
あたしとお母さんはタクシーに乗って、大地の家へ急行した。
柿崎家に着いて、あたしはタクシーを飛び出した。
お母さんがタクシーにお金払っている間にインターホンを殴りつけるように連打する。
すぐに扉が開いて大地が顔を出した。
「大地、お姉ちゃんはっ!?」
「とにかく中に入れ」
「お、お邪魔します!」
大地があたし達を家の中に案内してくれた。廊下を歩いていると、すすり泣く声が聞こえてきた。
お姉ちゃんの声だ! 泣いてる!
大地が突き当たりの部屋の扉を開ける。
そこはキッチンだった。なんだか、覚えのある良い匂いが漂っている。
柿崎さんとお姉ちゃんが並んでイスに腰掛けている。
テーブルには、湯気の立つカップが置かれていて・・・
お姉ちゃんは肩を大きく上下させ、泣き続けていた。
柿崎さんは、そんなお姉ちゃんの肩を抱き寄せるようにしている。
そしてその視線の先に・・・
ものすごく難しい顔の男の人が座っていた。
この人が、大地のお父さん?
うわ、なんか・・・ひと言でいうと頑固そう・・・。
おじさんは、あたし達に気付いてイスから立ち上がった。
そしてペコリと頭を下げて挨拶する。
「これはどうも。柿崎と申します」
「どうも。桜井です」
お母さんも頭を下げて挨拶を返した。
え、え―っと・・・。
こーゆー場合って、あたしも挨拶するべきなのかしら?
初対面なんだし。他人の家の中に入り込んじゃってるし。
でもノンビリ自己紹介してる状況でも無いような・・・。
まごまごしてるうちに、おじさんが話を進め始めた。
「どうぞお掛け下さい」
「・・・それでは失礼して」
お母さんがサッサとイスに腰掛ける。
それで席が埋まっちゃって、あたしと大地は扉の近くで突っ立っていた。
「・・・それで今回の件は一体どういう事でしょうか?」
お母さんが一番に口火を切った。
・・・なんか、口調がつんけんしてるように感じるんだけど。
「・・・娘さんから事情はお聞きではないですか?」
「聞きました。うちの娘がお宅の息子さんに妊娠させられた、という事ですよね?」
― シ――――ン・・・ ―
お、お母さ・・・。
全員の間に気まずい空気が充満する。
お母さんの冷たい口調のせいで、室内の温度が一気に下がった。
『させられた』の部分が、わざとらしいほどゆっくりと強調されてる。
ちょっと、そんなロコツにケンカ腰な・・・。
「昔風に言えば、うちの娘は息子さんに傷物にされたという事ですよね?」
あたしの内心の焦りにお構いなく、お母さんは飛ばしまくる。
うわ、これはもう確実に確信犯だ。
お母さん、柿崎さん達に完全にケンカ売ってるよ!
実はうちのお母さんの気の強さも、ハンパ無い。
女手ひとつで、家計と医療費と住宅ローンに立派に立ち向かった、千代ちゃんクラスの女傑だ。
そのお母さんの頭に完全に血がのぼっちゃってる!
・・・やばい~~・・・。
時限爆弾はお姉ちゃんだけだと思ってたけど、もうひとつあった。
こっちのプラスチック爆弾の方が、よっぽど危険かもしれない!
「それは少々、お言葉が過ぎませんか? 桜井さん」
おじさんがムッとした様子でそう返した。
「まるでうちの息子が、お嬢さんを弄んだように聞こえますが?」
「そうでは無いとおっしゃるんでしょうか?」
「当然です。拓海はそんな男ではない」
「ですが現実に、未婚の一海は妊娠させられましたが?」
「その点では、確かにお詫び申し上げます。しかし・・・」
「じゃあ息子さんの不逞を認めるんですね?」
「いや、ですから桜井さん」
ピリピリピリッと緊張感が高まっていく。
冷たく苛立った口調の応戦が、どんどん場の空気を悪化させていくのが手に取るように分かった。
うわあ~、双方のボルテージが上がってる。どうしよう。ますます興奮してきてるよ。
険悪になるふたりの顔を、あたしはハラハラしながら見守った。
「あの、お母さん。僕達の話を聞いて・・・」
「お父さん。私と拓海さんは真剣に・・・」
お姉ちゃんと柿崎さんが、荒れた会話に割って入った。
ふたりともなんとか理解してもらおうと、必死の表情だ。
でも・・・
親という名の城壁は、堅牢だった。




