運命の方向転換(1)
そして、そう決意したその当日から・・・
あたしは予想外の展開に嵌ってしまった。
お姉ちゃんが、また体調を崩して寝込んでしまったんだ。
ここんとこずいぶん忙しかったからなあ・・・。
きっと体に負担がかかっちゃったんだ。
あたしがもう少しセーブさせるべきだったよ。
自分の事で頭が一杯で、お姉ちゃんの体調を気遣いできなかった。
もう三日になるのにまだ微熱があるし、食欲も戻らない。
反省もあって、あたしは学校から帰ってから付きっ切りで世話をした。
お陰でお店の手伝いはお休み。
お店に顔を出し辛いなぁ、とかって心配は、とりあえずムダになった。
本当に人間、明日はどうなるか分からないね。
この状況が好転を意味するのか悪化を意味するのかも、分かんないけどさ。
とりあえず今日もあたしはお姉ちゃんの看病だ。
学校帰りにイオン飲料水を買って、心配してくれる花梨ちゃんと家に向かう。
「一海さん、まだ復調しないの?」
「うん。まだダメ」
「今回、ちょっと長いね」
「だいぶ疲れが溜まってたんだと思う」
「一瞬だけ顔見て、すぐに帰るよ。長居はしないから」
「ありがとね花梨ちゃん」
家に着いて、玄関のドアノブに手を伸ばす。
「・・・・・?」
なんだろ? 中からなにか音が聞こえる。
あたしは思わず耳を澄ませた。
これは・・・
人の声?
お姉ちゃんとお母さんの話し声だ・・・
って言うよりも・・・
あたしと花梨ちゃんは、顔を見合わせた。
いや! これは怒鳴り声!? お姉ちゃんとお母さんが・・・
怒鳴り合いの大ゲンカしてるっ!!?
あたしは慌ててカバンからカギを取り出し、鍵穴に突っ込んだ。
なんで!? なんで二人がケンカしてんの!?
しかも怒鳴り合いってどーゆー事!?
お姉ちゃんが怒るなんて、外国の内紛で子どもが犠牲になるニュースを見た時ぐらいだ。
それだって怒るよりも泣きの方が勝ってたし。
急いで玄関を開けて中に飛び込む。扉を開けた途端に二人の声が明瞭に聞こえてきた。
「どうして分かってくれないの!? お母さん!」
「分かってるから言ってるの!」
うわあ! やっぱり間違いない! 怒鳴り合いの大ゲンカの真っ最中だ!
なんだか分かんないけど、非常事態勃発中みたい!
靴を吹っ飛ばす勢いで脱いで廊下を走って現場に急ぐ。
花梨ちゃんも後に続いた。
キッチンのテーブルの横で、二人が向かい合って叫び合ってる。
ものすごく険悪な雰囲気で。
あたしはビックリしてしまって呆然とその光景を見た。
だって・・・お姉ちゃんが・・・
顔を真っ赤にして、お母さんに向かって怒鳴り散らしてる。
お姉ちゃんが。あのお姉ちゃんが。
当然ながら生まれた時からの長い付き合いだけど、こんなお姉ちゃんは見た事も聞いたこともない!
「違う! 分かってない! お母さんは何も分かってないわ!」
「それは一海の方でしょう!?」
「ちょっと何やってんの!? ふたり共っ!」
我に返ったあたしも叫び合いに途中参戦した。
何があったのか分からないけど、とにかく落ち着かせないと!
お母さんはあたしの顔を見て気まずそうに視線を逸らした。
お姉ちゃんは、そんなお母さんを真っ直ぐ睨みつけている。
な・・・なんなのよホントにいったい!?
「どうしたの! 何があったのさ!?」
「・・・・・」
「お姉ちゃんは具合が悪いのに! 怒鳴ったりして、その勢いで吐いたらどうすんの!?」
「・・・いいからあんたは部屋に行ってなさい」
お母さんが視線を逸らしたまま、押し殺した声を出した。
「よくないじゃん!」
「たいした事じゃないんだから、心配しないで部屋へ行きなさいっ」
「たいした事じゃないですって!?」
お姉ちゃんが金切り声を上げた。
「あたしのお腹の中に拓海の赤ちゃんがいる事が、たいした事じゃないって言うの!?」
・・・・・・・。
・・・・・え?
いま、お姉ちゃんなんて言っ・・・??
―クイッ―
制服の袖口を引っ張られた。
花梨ちゃんが、深刻な表情でテーブルの上を指差してる。
あたしは無意識にその先を見た。
テーブルの上には・・・
白い、スティック状の物が置かれていた。
全体が真っ白な中で、中央付近の短い赤い線がひときわ目立つ。
あれは・・・薬局とかでよく見る妊娠検査薬?
赤い、線?
じゃあ・・・
じゃあ、お姉ちゃ・・・・
「そうよ。あたし妊娠したの。拓海の子を」




