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心で理解する・・・。


「七海ちゃんは、もう理解してるはずだけど?」

「え?」

「だって毎日王子様の隣にいながら、大地を好きになったんでしょ?」

「・・・・・」


そう言われると胸がズキンと痛む。自分の不実を責められているようで。

ううん。違う。責め「られてる」んじゃない。

自分が許せなくて、自分で自分を責めてるんだ。


あたしの恋する相手は大地で。

柿崎さんは、憧れの人。

それはまったく別物って事なんだろうか?

難しすぎてよく分からないよ。

ハマチとブリって言われても、両方おいしい魚ってぐらいの認識しか無いし。


ただ、本当の柿崎さんの事を知らなかったって事実は、理解できる。

実際、これから知ろうとしてたところだったし。

あたしの事も、これから知って欲しいと思ってた。


お互い知り合う前に・・・あたしは大地の事を知ってしまった。

そして惹かれて、恋をした?


「柿崎さんと一緒に過ごすうちに、もしかしたら本当の恋になってたかもしれないけれど・・・」

「・・・・・」

「そうなる前に、七海ちゃんの心が大地を選んでしまったんだよ」

「大地を、選んだ・・・」

「自分の恋する相手としてね」


大地・・・。

あたしが本当に恋する相手。


・・・じゃあ。

じゃあ、じゃあ。


「花梨ちゃん・・・」

「なに?」

「あたしのこの10年って、いったい何だったんだろ?」


ほんとに、なんだったのいったい?

柿崎さんを王子様と崇め続けて10年間だよ10年間。

まだ花梨ちゃんの言葉を全て理解できたわけじゃないけど。けど、それじゃあ・・・


こんなにも長期間、あたしは偽者を大事に抱え込んでたって事?

大切に大切に心の中で温めてたって事? 孵るはずのない卵を?


うわ・・・これは・・・

ショックだ。

あたし、今かなり衝撃なんだけど。


「家宝の掛け軸が、実は3千円くらいのコピー商品でしたってのと同じくらい、衝撃だよ」

「そういうのって、ある意味ただの自己陶酔だからねぇ」

「・・・・・」

「夢から覚めた時のギャップってデカイもんなのよね」


あぁ・・・ほんとにデカすぎ。

おかげで今までの歴史が、根底から崩れ去ってる。

他人には笑い話かもしんないけど、当の本人にはのっぴきならない状況だわ。


「あたしの10年は、まるきり無意味な10年間だったわけ?」


無精卵を抱き続けるメンドリよりバカじゃん。

バカ以外に表現のしようがないくらい、純粋にバカじゃん。

どうしよう、あたしってかなりバカだわ。


「バカとは思わないけどな。恋や憧れって誰しもそういう部分があると思うし」

「でもあたし今、痛烈に自分が悲しいよ・・・」

「誰に迷惑かけたわけじゃないし、幸せな10年だったなら、それはそれで価値があると思うよ」

「幸せでは・・・あった」


確かに。幸せだった。

夢見る時間は最高に幸せだったよ。

誰にも邪魔されない、決して崩れる事のない、完全な時。

完璧、パーフェクトな王子様。その人があたしの運命の相手・・・。


素晴らしい夢の時間。でもいつか夢は醒めるもの。

そしてあたしは、ついに目覚めてしまった。

目覚めたあたしの目の前には・・・


「一海さんに恋する、大地の姿があったと」

「・・・・・」

「七海ちゃんも、つくづく因果な性質だよね・・・」


花梨ちゃんの同情気味な声に、あたしはガクッと脱力する。

そーなのよ。そこなのよー。


完璧な夢の中でさえ、お姉ちゃんは壁となって立ちはだかって。

目覚めてさえも立ちはだかってる。

お姉ちゃんってなんなの? ラスボス?


「七海ちゃんにとって一海さんは、庇護すべき対象だったのにね」

「うん」


それが良いか悪いかはともかく、お姉ちゃんを可愛そうだと思ってた。

だから守ってあげなきゃって思ってた。

それが今じゃ、全然立ち位置が違っちゃってるというか。

羨望の対象だよ。

っていうより本音で言うと・・・嫉妬の対象。

ジリジリと焼けるようなこの不快な感情は、やっぱり嫉妬と呼ぶものだと思う。


「七海ちゃんが一海さんに嫉妬、かぁ・・・」

「まさかこんな日が来るとは思わなかった」

「人間って、明日どうなるか分かんないね」


うん。花梨ちゃんの言葉にまったく同感。

お姉ちゃんは、確かに虚弱で、間違いなく色々と不遇だった。

一般的に言うなら、変な例えかもしんないけど「負け組」って部類に入ってたのかもしれない。

それが今では、あたしのラスボス?

それなら完全な「勝ち組」だよね。

お姉ちゃんは前途洋々なのに、あたしはお先真っ暗だもの。

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