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「いやあ、まいったよなあ」

突然大地が口を開いた。


「まさか、こんなウワサが立つとは思わなかったよなあ」

「・・・・・」


あたしは返事もできず、うな垂れたまま。


「よりによって、お前とオレだぜ? お前とオレ」

「・・・・・」

「こりゃもう、笑うしかないだろ」

「・・・・・」


キュッと、あたしは唇を噛んだ。


『よりによって』

『笑うしかない』


・・・こっちのセリフなんだよ。それは。


その言葉があたしにとって、どれほどの意味を持つか、大地は知らない。

そして、それを大地に伝えるわけにはいかないんだ。


「おい~、なにもそんな不機嫌そうな態度とる事ねえだろ?」

「・・・・・」

「別にオレがウワサ流したわけじゃねえんだし」


ずっと下を向いたまま、無言で歩き続けるあたしを見て大地は怒ってると思ってるらしい。

それでいい。

そのままカン違いしたままでいて。

あたしの本当の気持ちに、気付かないで・・・。


「とにかくあれだな。オレ、当分店には行かねえから」

「・・・っ!?」


思わず顔を上げて大地を見た。


「しばらくおとなしくしてないと、またチクられる」

「・・・・・」

「親呼び出しはマズイだろ。やっぱ」


こめかみを指先でぽりぽり掻きながら、大地は渋い顔をしている。


「本当にいい迷惑だな。こんなウワサは」


大地・・・。


大地が、お店に来なくなっちゃう。

大地に会えなくなる。

大地に・・・会えない・・・。


「一海さんに・・・しばらく会えないな」


寂しそうな声で、大地がぽつりとこぼした。

あたしの胸がぎゅううっと押し潰される。

息が苦しい。こんなにも切ない。


・・・泣きたい。


でもどうにもできない。泣くわけにもいかない。

痛みも苦しみも悲しみも、全部受け入れるしかないんだ。


・・・・・どうやって?


「念のため、今から別行動しようぜ。オレは教室片付けるからお前は調理室を頼む」


じゃあまた、そのうちな。

吹っ切るようにそう言って、大地は片手を上げて走り出した。

あたしはその背中をその場で見送る。

こっちを振り向きもしない、大地の背中を。


大地の心の中は今、お姉ちゃんの事で一杯。

お姉ちゃんに会えない寂しさと切なさで一杯。

あたしの方を振り向く気持ちなんて、カケラも無い。

無いんだ・・・。


大地は廊下を曲がって姿が見えなくなるまで、ついに一度もこっちを振り向かなかった。

手すら振らない。

その現実に、あたしは放心したように立ち尽くしたまま。


泣きたいの。泣きたいのに・・・


情けなさ過ぎて、涙も浮かばなかった・・・。


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