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「告白だとか、見つめ合うとか。そんなのただのカン違いです。完全な誤解なんすよ」

淡々と話し続ける大地。まるっきり普通に、落ち着き払った声で。

動揺も、照れも、そんなのみじんも感じられない。


ただのカン違い。

完全な誤解。

大地の吐き出す言葉が、まるであたしに向けられているように感じられるのはなぜだろう?

その言葉ひとつひとつが、まるで突き刺すように胸に響くのはなぜなんだろう?


「オレにだって一応、好きな相手くらいはいます。でも断言します。それは桜井じゃない」


ズキンッ!

心臓が激しく痛んだ。

ザアァッと全身が一気に冷えた。体中に冷たくなってしまった血液が巡る。


・・・悲しい、の? 

あたし、悲しんでる?

大地が好きな人は、あたしじゃないって言葉に悲しんでるの?

そんなこと・・・そんな事、最初から分かりきってる事じゃないの。

なのになんであたし・・・


「なのにこんなウワサになって。マジで迷惑っすよ」


あたしはヒザの上で、ギュッと両手を固く握りしめた。

そうやってなんとか耐えた。大地の言葉に。

襲ってくる悲しさと寂しさに。

苦しさと切なさに。


切ない。あたしは切ないんだ。

なぜ?


・・・それは、大地が好きな相手があたしじゃないから。

その事実が悲しくて寂しくて苦しいんだ。


どうして? 

・・・それは・・・・・


あぁ・・・うん、そうなんだよ。

そうなんだ。認めよう。もう認めてしまおう。

それは・・・


― あたしが、大地に恋してるからだ ―



あたしは大地が好きなんだ。

大地と一緒の時間を過ごしているうちに、どんどん惹かれていった。

そして完全に恋してしまった。大地という人間に。


今までこんな事は無かった。

どんなに素敵なクラスメイトがいても、どんなにカッコイイ先輩がいても・・・

心惹かれる事なんか一度も無かった。


あたしには柿崎さんがいたから。

永遠の王子様が心の中に住み着いていたから。

たったひとりの人を思い続ける自分が誇りだったから。

自分でも認められなかった。認めたくなかったんだ。


でも・・・

大地は、そんなあたしの心の中に入り込んでしまった。

あたしは大地の事を好きになってしまったんだ。


どうしよう。なってしまった。

もう完全に好きになってしまっている。

最初のうちに諦めるとか、途中で気を紛らわせるとか、もうそんな段階を超えてしまっている。

認めたくなくて見ない振りしてたせいで、その時期を逃してしまった。


完全に、完璧に、大地が好き。


あたしのお姉ちゃんに恋してる大地が。

さんざん『柿崎さんがあたしの運命の人よ』って告白した大地が。

その恋を応援してくれてる大地が。

カン違いだって、誤解だって、迷惑だって言ってる大地が。


あたしは、好きなんだ・・・・。


「じゃあ今回の件は、根も葉もない、ただのウワサなんだな?」

「そうっすよ。ただのウワサですよ」

「桜井もそうなんだな?」

「・・・えっ?」


心の中の嵐に翻弄されているあたしに、急に先生が返答を求めてくる。


「お前は柿崎に対して、恋愛感情は無いんだな?」

「あ・・・・・」


突然に突きつけられる選択の余地の無い質問。あたしはうろたえ、視線を泳がせる。

隣の大地の視線を感じる。

先生たちは黙ってあたしを見ている。

この、この状況で・・・


「・・・はい。ありません・・・」


そう言うしか、ないじゃないの・・・。


あたしは俯いて、大地の目の前ではっきりとそう言い切った。


「よし、それならいいんだ。忙しいのに時間とらせて悪かったな」

「ふたりとも戻っていいわよ」

「はい」


明るい表情の先生達に会釈して、あたしは大地と一緒に進路指導室を出た。

そしてお互いに無言で廊下を歩き続ける。


・・・重い。体も、心も。

ここへ来る時に抱えていた感情とは、別の重苦しい感情が心を占めている。

隣の大地の存在が、辛い。


明るいヤツ。楽しいヤツ。頼れる同士、戦友。

なのに今までとはまったく違ってしまった、この存在感。

違ってしまったんだ。もう・・・。

あたしは大地の事が好きだから。


それが、とてつもなく悲しい。

悲しくて、自分でもこの感情をどうすればいいのか分からない。

分からないよ・・・。

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