(7)
我慢できずに、席に着くなりあたしは口を開いた。
「あの、先生・・・」
「今日のカフェで何か問題でもあったんすか?」
あたしの声をさえぎって、大地が質問する。
やっぱり大地も同じ事を考えてたんだ。
そうだよね? だって思い当たる事といったらそれしかないし。
どうしよう。せっかく大成功だと思って喜んでたのに。
「あぁ、いや。カフェの件は関係ないから」
「何も問題ないわ。その件は安心してね」
先生が揃ってきっぱり否定した。おかげであたしはホッと胸を撫で下ろす。
・・・・・よかったあぁぁぁ。
大変なトラブルが起きてたら、どうしようかと思った!
ハラハラしちゃったよもうっ! あぁ、一安心だよ!!
隣で大地も安心したように、そっと息をついた。ほんっとよかった!
・・・でも、じゃ、いったい何??
なんであたし達が揃って呼び出し??
カフェじゃないとなると、まったく見当もつかないよ。
頭の中を?マークで一杯にして先生を見る。
先生達は、あたしの視線をちょっと困ったように受け止めた。
でもすぐまた厳粛そうな表情になる。
???
ほんとにいったい、なんなの先生??
大地の担任が、真面目な声を出す。
「柿崎、桜井、お前達・・・」
「はい」
「お前達が男女交際してるって噂は、本当か?」
「・・・・・・・」
・・・・・はい??
え? なに??
なんだって??
・・・先生、ごめんなさい。ちょっと意味が・・・・・
「してるのか?」
「・・・なにをですか?」
「だから、男女交際をだ」
「・・・・・」
え―――っと・・・。
男、女・・・交・・・
交際? 交際って言った?
交際ってつまり、男と女の交際って事よね? 付き合ってるか?って聞いてるのね?
・・・・・。
「・・・・・誰と誰が?」
「お前と柿崎が」
「・・・・・」
「実はだな・・・」
「はい?」
「お前達が『不純異性交遊』をしているって噂があるんだよ」
「はいぃっ!!??」
ふ・・・不純異性交遊―――!?
ってちょっと!!
男女交際って話はドコ行ったの!? 一気にバージョンアップしてんじゃん!
「なんなんですかそれっていったい!?」
「聞いているのは先生だ」
んなもん、よっぽどこっちが聞きたいわっ! どーゆー事なのよそれって!
「どういう事なんだ?『不純異性交遊』を・・・」
「ちょっと先生! そこだけわざとらしく妙なイントネーションで発音するのやめてよ!」
「い、いや先生は別に・・・」
先生達は、また困ったような顔になった。ふたりで目配せし合ってる。
でもね先生! 困惑したいのはこっちだよ!
『不純異性交遊』ってつまり、それってあたしと大地が、その、ごにょごにょ・・・!
・・・・・。
ああ・・・・・。
そっかあ・・・・・。
あたしは突然納得した。
あー、なるほどそーゆーことね? なんでこういう事態になったのか、理解できました。うん。
つまり、うちの学校は今どき・・・
男女交際厳禁! が校則なんだ。
うちの学校は古~い学校で。
もともと、「〇〇女学校」って名前のついてた学校だった。
『故 北小路 千代子』
通称、千代ちゃん。
戦前だか戦後だかに、この女傑が必死に奔走して建てた学校。
あの時代では、考えられないくらいの類まれなバイタリティーの持ち主。
生涯を女性の地位向上のために捧げつくした、地域の偉人。
学校の生徒玄関の真正面に、等身大の巨大な「千代ちゃん肖像画」が飾られてるほどだ。
で。
女学校として創立した時からの鉄則が、伝統として連綿と守り続けられている。
「千代ちゃん七ヶ条」
あたし達生徒が、陰でそう呼んでる校則に、男女交際厳禁って項目があるのだ。
しっかりと。
貞淑がどーの、学術の知得と研鑽がどーの。
やたら小難しい文章なんだけど、要するに
「親の金で学校来てんだから、男に色目使ってるヒマがあったら勉強せーや」
って事らしい。
まぁ、自分が必死こいて建てた学校の女生徒が、男とイチャつくのが我慢できなかったんだろう。
忙しすぎて婚期逃した千代ちゃんが、八つ当たり気味でつくった校則だって生徒は考えてる。
てせもなんだかんだ言っても、千代ちゃんは我が校の誇り。
だからうちの学校は男女交際厳禁。
・・・表向きは。
そう。あくまで表向きは、の話。
み~んな陰で隠れてこっそりちゃっかり付き合ってる。
学校側も、そこらへんはまあ、ねぇ。
校内でキスしてること見られちゃったりとか、そんな迂闊なミスを犯すバカップル以外は、大目に見ているところがある。
ただそーなると、どこにでも。
タチの悪いイタズラをしたがるヤツってのは、湧いて出てくるもんで。
「あいつとあの子が付き合ってる」
みたいな噂をワザと派手に流して、学校側にチクる連中がいるんだ。
当然、学校側もそうなると無視できない。呼び出しして厳重注意。
学生の本分は勉学であり、異性との交際はまだ時期尚早云々・・・。
つまり、別れろって言われちゃうの。




