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「心配ない。大丈夫だから」

あたしの緊張を肌で感じたのか、大地がそう言った。

ううん、心配してるわけじゃないの。そうじゃなくてただ・・・。

ただ、あたしは・・・。


優しく頬を滑る大地の手の平。

太くて長い指先は、意外なほど滑らかに動く。


しっとりと潤った肌の上に、軽やかに踊るフェイスブラシ。極薄のパウダーが均一に塗られる。

淡い淡い、桜色のチークが頬骨に。

そして明るいブラウンのアイライン。


ビューラーでクルンと上げたまつ毛に、透明なマスカラ。

ピンクの色つきリップクリーム。

唇の真ん中に、ちょっとだけグロスを重ねて。


どきどきする胸を抱えながら、あたしは徐々に魔法のような指に魅了されていった。


「よし、終わったぞ・・・どうだ?」


大地が鏡をテーブルに置いた。

あたしは開かれた卓上ミラーを覗き込む。


「うわあ・・・」


すごいっ。

すごくナチュラルで、一見スッピンにしか見えないのに・・・。


肌のキメや透明感、綺麗度が全然違う!

目もパッチリしてて、いつもより大きく感じる!

唇も、すごく血色良くて健康的!

なんていうか、全体的にイキイキしてキラキラして・・・


可愛い!って印象!

うわあ、うわあ、うわあぁぁ~~!


あたしは自然に顔がほころぶのを止められない。

嬉しい! すごく嬉しい!


「どうだ?」

「すごい! 大地ありがとう!!」

「気に入ったか?」

「うん! すっごく!!」


あたしのはしゃいだ感謝の声を聞いて、大地もあたしに負けないぐらい笑顔になった。


「本当にメイクってすごいね! あたしが可愛く変身しちゃったよ!」

鏡に張り付くようにしているあたしに大地は笑う。

そしてこう言った。


「メイクはさ、単なる手助けだよ」

「ん? なにが?」

「元々有るものを引き出してるに過ぎないんだ」

「ん??」

「つまり今のお前が可愛く見えるって事は・・・」


大地は屈んで、微笑みながらあたしと視線を合わせた。


「元々、お前が可愛いって事なんだよ」


バックン・・・!!


おさまっていた心臓が、また大きく鼓動を打った。

顔に血液が、ガアァっと一気に集まる。皮膚がジリジリ痛みを感じるほどだ。


可愛い?

あたしのこと可愛いって、そう言ったの・・・?


見られてる。

こんな真っ赤に染まった顔を、あたし、大地に見られてる。

どうしよう、どうしよう。

恥ずかしい。隠れてしまいたいくらいに恥ずかしい!

でもそれと同時に・・・


とても嬉しい! 嬉しくて嬉しくてたまらない!!

心臓のドキドキも止まらないよ!

あぁ、あたし、あたし・・・。


「すみませーん。ここってもう入っていいですかぁ?」


ハッと振り向くと、教室の入り口に生徒が数人立っていた。


「あ、あ・・・い、いらっしゃいませえ!」

あたしは裏返った声を出しながら、急いで立ち上がった。

大地がメイクボックスを素早く片付ける。


やったあ! お客さんだ! お客さん第一号だ! よーし来た来た来たあぁ!


気持ちを瞬時に切り替えて、あたしは接客モードへチェンジした。

席に着いたお客さんのオーダーをとってると、次のお客さんも入ってきた。

「いらっしゃいませ」

そっちは大地が対応する。


よおぉぉしぃ! 来い来い来いぃ!!


心の中でガッツポーズしながら客寄せの祈祷をし続ける。

あたしのその祈祷に効果があったのかどうか知らないけど・・・

それから、怒涛のお客さんラッシュが始まった!!


もう、忙しいの忙しくないのって・・・マジで気が狂うかと思うくらい忙しい!!

商売大繁盛!

あたしの祈祷って、まねき猫50匹分くらいの効果があるんじゃない?


あたしと大地と柿崎さん、三人がかりでフル稼働。

食器を片付け、テーブルを拭き、お客さんを席に誘導。

にっこり笑顔でオーダーを聞いて、形相変えて調理場まで突っ走る!


調理場ではお姉ちゃんが孤軍奮闘。

目を回しながら働いている。

半ベソかいてるその様子を見るに見かねて、花梨ちゃんが援軍に来てくれたほどだ。

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