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そしていよいよ・・・


学園祭当日の朝を迎えた。


みんな前日から準備で大忙し。

お姉ちゃんなんて緊張と興奮で、夜に微熱出して寝込んでしまって、皆を心配させた。

お姉ちゃん~~。

お願いだから、二十歳過ぎてから知恵熱なんか出さないで~~。


でもお姉ちゃんの体調も、朝にはすっかり元通り。元気に調理作業を始めた。

ほっと一安心。


エプロンをびしっと装着し、あたしはヤル気満々!

腰に手を当て仁王立ちで教室内をぐるっと見渡した。


テーブルとイスのセッティング完了。

ナプキンの用意も完璧。

黒板は、イラストの得意な友達に、カラフルなチョークで可愛~く描き込んでもらった。

準備万端! やるぞお~~!!

今日の働きによって、お店の命運が変わるかもしれないんだ!

失敗は許されない。絶対にね!

勝つのよ!

このミッションを必ずや成功に導くのよ!!


うおぉぉ~~~っ!!


・・・って使命感と意欲に燃えまくってるあたしの襟を、ぐぃっとつかむ手が現れた。


「・・・また! ちょっと大地!」

「はいはい、座ってもらいましょうかー」


気の抜けた声を出す大地に、あたしはイスに座らされた。


「もう、何よ!」

「お前、すっげー顔怖ぇよ」

「なんだと―――!?」

「客商売だぞ? 試合前のプロレスラーみたいな顔すんのはやめてくれ」


そう言いながら大地は、机の上に大きな四角いバッグをどすんと置いた。


「なにこれ?」

「オレのメイクボックス」

「はい?」


大地がボックスのフタを開けた。

・・・・・おぉっ!!

フタと同時にトレーもカパリと大きく開いた。これってプロ仕様のメイクボックスじゃん!

ボックスの中は、カラフルな化粧品やメイク道具で一杯だった。

すごい種類! しかもみんなしっかり使い込まれてる。

豪華な花束を見ているみたいで、心が一気に華やぐ。


「オレの将来の夢さ」

「え?」

「メイクアップアーティストになるのが、オレの夢なんだよ」


夢?

メイクアップアーティスト? 大地が?


大地がボックスの中から、ボトルやブラシを取り出し始めた。

それをテーブルの上に並べて置いていく。


「母親の影響だろうな。たぶん」


あぁ、化粧品会社に勤めていたっていう・・・。

そういえば、大地がお姉ちゃんと出会った場所はメイクのセミナーだった。

そっか・・・。大地、真剣にメイクの仕事に就きたいって思ってるんだ。

そのための努力も、もうすでに始めてるんだ。

へえぇぇ・・・知らなかったなぁ。


少し尊敬しちゃうかも。

あたしなんて、将来どうするかなんてまだ全然考えてもいないのに。

ちゃんと先の事を考えてるんだ。ふ―――ん・・・。


「全部自分の小遣いで揃えてるからさ、年中金欠で大変だよ」

「だよね。良い化粧品って高いし」

「10日間昼飯アンパン一個でガマンして、化粧品買ったんだ」

「ふーん・・・」

「ファンデーション抱きしめて大喜びしてる時に、一瞬我に返って、ちょっと笑った」


ファンデーション購入して狂喜してる男子高校生・・・。

ちょっとどころじゃなく笑えるかも。でも・・・


「ね、大地」

「んー?」

「あんたってさ、いつも『オレ様はエライ』って言うけど・・・」

「なんだよ?」

「それ、今なら同意しちゃうかも」

「・・・なに言ってんだ」


照れたように笑う大地。その笑顔を見たら、なんだかあたしまで嬉しくなった。


「よし! お礼に七海にメイクしてやろう!」

「えっ?」

「今日は一番良い顔で接客してもらわないとな」


大地はボトルから化粧水を出し、手に広げる。そして両手であたしの頬を包み込んだ。


・・・どきん!

手の平に顔を包まれた瞬間、あたしの心臓が大きく跳ね上がった。


「大丈夫。オレにまかせろ」


大地の手の温もりを感じる。指の動き全てに、あたしの神経が過敏に集中する。

顔に血が集まるのが分かる。体温が上がって、うっすらと汗がにじんだ。

心臓は相変わらず、どきどき大きく波打っている。

あたしは・・・うろたえた。

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