(3)
次の日の放課後。
あたしと大地は学校の印刷室に忍び込んでいた。
「大丈夫? 誰も来ない?」
「大丈夫だ。今のうちに早く」
こそこそこそ・・・。
大地が印刷機を動かし始めた。あたしは用紙を急いでセットする。
お店の宣伝のためのチラシ作り。
当然、業者に依頼するお金なんてどこにも無い。全~部あたし達の手作り。
学校の印刷室で、ホームセンターで買ってきた用紙を使い印刷する。
インク代と電気代は、ちょろまかしてる事になっちゃうけど・・・。
愛のためなの。お願い見逃して。
今度の学園祭の時に、学校バザーの売り上げで貢献するから。
結構うるさい音に囲まれながら、あたしと大地は計画を練る。
「今回はどこら辺りに配る?」
「橋を越えた辺りに配るか」
「もう一回、前回と同じ場所に配って印象付けるとか?」
「う~ん、それはまた次回にでも・・・」
たいした枚数でもないから、あっという間に終了。
刷り終わったチラシを胸に抱えて、部屋を出ようとした時・・・
「あら? あなた達・・・?」
ちょうど廊下を歩いていた先生と鉢合わせしてしまった。
やべっ! 見つかっちゃったよ!
「桜井さんと柿崎君?」
「は、はい。先生こんにちはぁ~~」
「印刷室に用だったの?」
「え? あ・・・はいぃ~」
「違うクラスなのに何の印刷物?」
「あ、えっとおぉ~~」
どきどきどき・・・!
うわぁやばいっ。バレちゃうよぉ~。
うまく嘘ついて誤魔化さなきゃと思うと、どんどん顔が赤くなる。
ますます挙動不審だ。
「それぞれ別の印刷です。偶然かち合っただけですよ、たんに」
大地がしれっと嘘をついた。
表情ひとつ変えてない、堂々とした嘘つきっぷり。あぁ、この図太い神経がうらやましい・・・。
「あぁそうなの? ご苦労様」
「失礼します」
「失礼しまぁす~・・・」
先生に頭を下げて、いそいそとその場から離れた。
ふへぇ~。助かった。
「つくづく要領悪いやつだなぁ」
「うるさい。あたしは正直者で繊細なのよっ」
大地の腕をヒジで突っついてやる。
「ほら、そっちのチラシ寄こせ。重いだろ? 店までオレが持ってく」
あたしの腕をヒジで突っつき返しながら、大地が言った。
「ありがと。お願い」
でもなぁ、効果あるのかな?
前回ご近所に配った時も全~然反応無かったし。
もっとこう、劇的に効果的なチラシの配布方法って・・・。
・・・・・あっ!!
あたしは預けかけたチラシを引っ込めた。
「どうした?」
「いい」
「いい? なにが?」
「この分、あたしが配るから自分で持っていく」
あたしはチラシを胸に抱きこんだ。
「今回はさ、それぞれ好きな場所で配ろうよ」
「おい?」
「効果的な場所を考えてさ、別行動って事で」
そう言うなりあたしは教室に向かって走り出す。
「おい! 七海!?」
「配り終わったら店で会おうね!」
「七海!? おいって!」
大地の声を背中で聞きながら、あたしはにんまりする。
そーだそーだ。そーなのよ。やっぱり宣伝ってのは、劇的な印象が必要なのよ。
思いついちゃったもんね、バッチリ!
大地には真似できない。
お姉ちゃんにも真似できない。
あたしにしかできない宣伝方法!
そうと決まれば急がなきゃ。用意に時間がかかるかもしれないし。
えへへへ、頑張らなきゃ!
あたしは胸を弾ませて廊下を走る。
足取りも軽やかだ。自己流変形スキップも絶好調!
さぁ! 急げ急げ急げぇ~~!!




