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扉を開けると、そこは・・・

ごく普通のカフェだった。

「けっこう普通ね」

花梨ちゃんがあたしの後ろから、キョロキョロしながら中を覗き込んでる。


玄関を入ると、すぐお店が広がってる。

もちろん個人宅だからそんなに広くも大きくもないけど。

小さめの4人掛けのテーブルが・・・5席?6席? それくらい。


「とりあえず、本当にカフェではあるみたい」


だね。よかった。

ま、あんまりにも普通なのがちょっと残念だけどさ。

もーちょっと意外性を期待してたんだけど。


木製の手作り感が満載のテーブルとイス。

洗いざらしのような、デニムっぽいクロス生地。

無造作にコップに刺さった、背の低い小さなお花。

窓辺におかれている観葉植物やアルミ製のジョウロ。


なんていうか、カントリー?

山小屋??

素朴というか、素っ気無いとゆーか・・・。


「いい雰囲気。気に入ったかも」

花梨ちゃんがちょっと機嫌良さそうにつぶやいた。


「えー? ちょっと殺風景じゃない?」

「あたしはこれくらいがいい」

「可愛さが足りないよー」

「可愛すぎると落ち着かない。わざとらしさが透けて見えて、逆にイラつくの」


あぁ、そうね。花梨ちゃんの性格ならきっとそうだろうなぁ。

あちこちを見渡しながら、適当な席にふたりで座った。

「ふーっ。とりあえず、一息ついた」

やっぱり屋根がある場所で、ちゃんとイスに座るってのは落ち着くね。

でも・・・


「・・・誰もいないね」


お客さんもいないし、お店の人もいない。ガラーンとして静まり返ってる。

今日ってお休みの日? でもドア開いてたしなぁ。


「そのうちオーダーとりに来るでしょ」

花梨ちゃんがアッサリと言い切った。

うん。そうだね。疲れてるから動きたくないし。待ってよう。


「あー、疲れた疲れた」

「誰のせいですかねぇ?」

「方向オンチの遺伝子を持った、ご先祖様のせいです」

花梨ちゃんのイヤミ攻撃をスルリとかわして、ウーンと伸びをする。


「昨日は寝不足だから、余計に疲れたー」

「七海ちゃん、また夜更かししたの?」

「違うよ。ちゃんと早く寝たもん」

「じゃあどうして寝不足?」

「夢みて興奮しちゃってさー」

「七海ちゃん、エロい・・・」

「なに想像してんのっ。違うよっ」


そんな想像する花梨ちゃんの方が、よっぽどエロでしょうがっ。


「隠さなくっていいって。親友じゃん」

「なにニヤニヤしてんのっ。違うって」

「じゃあ、どんな夢見て興奮・・・」


そこまで言って、とたんに花梨ちゃんが『あっマズイ!』って顔をした。


うふふ。そーよ。

そーなの! そのとーりっ!


「また王子様の夢をみちゃったのー!!」

「あ~、始まったよ。七海ちゃんの『運命の王子様』が」

花梨ちゃんが嫌そうな顔をした。


「そんな心底嫌そうな顔しないでよ」

「だって心底嫌だもん」

「ひどっ!」

「十年間も同じ話を聞かされたら、普通は嫌になるって」


だって運命の出会いは十年前にさかのぼるんだもん!

十年分の、熱い切ない想いがあるんだよ! めいっぱいに!


「で、その熱くて切ないヤツを、今日もあたしはめいっぱい聞かされるわけ?」

「うん! ぜひぜひ聞いて!」

「嫌だぁ~~っ」

「嫌でも話すよ、あたしは!」

「選択の余地ないじゃん!」


だってさー、恋愛話って楽しいじゃん。

ひとりで胸にしまってるより、話して互いに盛り上がらなきゃ!

それが女子同士のルールとマナーってもんでしょ?


という事で、さあ!

今日も熱く、めいっぱい、行くよ――!!


「そもそもね、あれは十年前の夏の日のこと。川に落ちて溺れかけたあたしを助けてくれた、王子様。その人があたしの初恋の彼なの」


あたしはうっとりと目を閉じて、あの日の出会いを話し始めた・・・。


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