(6)
「しかたない。ギブ&テイクだ。実は兄貴には今現在、頭痛のタネがある」
頭痛のタネ? なんだろ?
あぁ、ひょっとしたら・・・
「お姉ちゃんの方向オンチ?」
「・・・・・」
「気持ちは分かるけど悩むだけムダ。遺伝子レベルの問題だから」
「じゃねーよ。店だよ。あのカフェ」
「店?」
ああ、そういえば言ってたっけ。店が不安だとか、日が浅いとか何とか。
「あの店、元々は兄貴の大学時代の先輩の店なんだ」
「へえ、そうなの?」
「その先輩ってのが、とにかく優秀で豪傑で。すっげえ変わり者。大学内でも超有名人」
「ふうん・・・」
「信者も多くてさ。兄貴もそのひとりだった」
「柿崎さんが?」
「その先輩も兄貴の事、すっげー気に入って。ふたりは親友同士になったんだ」
ふうん。柿崎さんがその先輩と?
なんか意外な話ねぇ。だって聞いてる分には、性格正反対に思えるけど?
「人間、自分に無い物を常に求めるモンなんだよ」
「そ―かなぁ~~??」
「お前だってあいつと親友なんだろ?」
「あ、そーか。うん良く分かった」
「その先輩のご両親が、突然事故で亡くなってさ・・・」
先輩は独りぼっちになっちまった。
さすがにひどく落ち込んで。
兄貴も必死に慰めてたな。
うちも母親がいないし、他人事じゃなかったんだろ。
ふたりの友情の絆はますます強くなった。
先輩はようやく立ち直った。
そして、こう言い出したんだ。
『自宅をカフェに改築して経営する』って。
両親の思い出の遺るこの家を、人々の癒しと憩いの場にしたい。
そうすれば両親もきっと浮かばれるだろうって。
で、相続した財産ぶち込んで、あのカフェが誕生したんだ。
「思い立ったら即実行!な男らしい人だったからな」
「まぁ、気持ちは分かるね」
「兄貴も理解者だった。そして協力者だった」
一緒に店を切り盛りしてたんだ。
素人がいきなり始めた商売だ。そんなすぐには軌道に乗るわけ無い。
でも本当に楽しそうだったぜ。ふたりとも毎日イキイキしてた。
ところが・・・
「出ちゃったんだよなぁ・・・」
「出たってなに? まさかご両親の幽霊?」
「ちげーよ。先輩の悪いクセが」
「?」
「突然、店から消えちまったんだよ。あの人」
「えっ!!?」
なんでっ!!? 大切なお店でしょ!?
ほったらかしてドコ行っちゃったのよ!?
「カンボジア」
「はあぁぁっ!?」
「カンボジアの子ども達の教育と福祉に協力したいって」
「カ、ンボ・・・」
「それが自分の天命だと気付いたんだと」
「・・・・・」
「で、姿消して渡航しちゃったんだよ。カンボジアに」
「な・・・・」
なんなのそれぇっ!?
その突飛過ぎる行動は、なに!?
確かに立派な天命だとは思うけど! もうちょっと時期を待てなかったの!? その天命!
豪胆ていうより、単に物事深く考えるのが苦手なだけでしょ!?
「とにかく店は全て任せた。お前を信じてる・・・って手紙が一通、ネパールから届いた」
「カンボジアじゃなかったの!?」
「天命の場所が変更になったらしいぜ」
「その先輩、頭おかしいんじゃないの!?」
「変わり者だからなぁ」
「もはやそれ以前の問題でしょ!?」
で・・・
柿崎さんは他人の店の責任、押し付けられちゃったわけ!? そりゃ悩みもするでしょ!
「放り投げりゃいいじゃない! そんな店!」
「男同士の友情だぞ? 裏切れるかよ」
「先に裏切ったのはあっちだろ―が!」
「兄貴にとっては、親友が自分を信じて任せた店だ。守りきる使命感に燃えてんだよ」
「はぁ・・・・・」




