(5)
「あいつ、ガキの頃からそんなだったのかよ?」
大地が呆れたように言った。
「さぞかし親や教師泣かせだったろうな」
「親はもう完全に受け入れてるよ。担任は泣いてたけどね」
大学出たばっかりの、若い女の先生だったからなぁ。さすがにあれはちょっと気の毒だった。
花梨ちゃんを扱うには年季とスキルが足りなすぎたんだよねぇ。
あの先生、どうしてるかな? トラウマになってなきゃいいけど。
「そういう性格なら、あいつに反対されるのは分かりきってた事だろ?」
「うん。分かりきってた」
「ならわざわざ宣言しなくても良かったんじゃね?」
「すぐにバレるもん。もう、確実に間違いなく」
「女ってすげえよな。浮気に勘づくのは決まって女だからな」
「変な例えしないでよ」
あたしと花梨ちゃんはちょっと特殊なんだよ。なにしろ分身みたいな関係だから。
分身に絶交されちゃった。
こりゃかなり精神的にキツい日々が始まるなぁ。
あたしにとって、花梨ちゃんが隣に居るのは当たり前だから。
当たり前の状態が、そうでなくなるってのは、なかなかにダメージが大きい。
このダメージ抱えながらあたしはチャレンジしなきゃならないんだ。
でもしかたない。
それが、当たり前で無い事をしようとしている代償なんだろうから。
その自覚だけはしとかないとね。
バカな事しようとしてるのかもしれないけど。
「お前ひとりじゃないからな」
「大地・・・」
「バカもふたり揃えばどうにかなるだろ」
「・・・うん」
「決めたんだから、やるしかない。お互いにな」
そうだよね。決めたんだから。心細いけどやるしかないよ。お互いに。
笑ってる大地の顔が、妙に頼もしく見える。
うん。なんたって同士だもんね。こいつとあたしは仲間なんだ。戦友だ!
「頼りにしてるよ! 戦友!」
「おぉ!」
あたしと大地は、顔を見合わせて笑う。
そしてお互いの握りこぶしをコツンと合わせた。
「でさ、戦友。さっそくなんだけどさ・・・」
「ん?」
「あたしっていったい、これから何をどーすりゃいいの? 教えて」
「お―ま―え―なぁ―・・・」
大地の握りこぶしが、あたしのオデコをぐりぐりした。
「痛いっいたいっ」
「そこまで甘ったれんなよ。自分で考えろっ」
「そんなぁっ」
「他力本願で戦利品が手に入ると思うなよ」
「無理だって~」
自慢じゃないけどあたし、善良な小市民なんだもん!
略奪行為なんて未経験なんだから!
「小技を伝授してよ。あんたそーゆー腹黒いこと得意なんでしょ?」
「なんでだよ!?」
「お願いっ。あたしって圧倒的に不利なんだよぉ」
出会いは10年も前だけど。再会したのは、ほんのつい最近。
この10年の柿崎さんのデータなんて皆無なんだから。
10年分の想いばかりが空回りして、手持ちの武器がまったく無いのよ。
「ねぇ、情報を持つ者は常に勝者でしょ?」
「・・・・・」
「お姉ちゃんの極秘情報、あんたに横流しするからさぁ~」
「どこが善良な小市民だよ、どこが」
大地がそう言って溜め息をつく。
でも横流しのフレーズが功を奏したのか、柿崎さんの情報を暴露してくれた。




