(4)
あたしの大親友の花梨ちゃん。
キレた時の無茶っぷりは天下一品。
小学生の頃。
クラスにイジメられてる女の子がいた。
顔の目立つ部分に小さな赤いシミがあって。いつもそれをからかわれていた。
特にしつこく絡む男の子がいて。
女の子は、その男の子に泣かされてばかりいた。
ある日の施設見学会。
みんなで浄水場へ見学に行った時。
その男の子が、また悪さをした。
先生や職員が見ていない時、こっそり女の子の背後に忍び寄って・・・
汚れた水を溜めておく深いプールに、その女の子を突き落とそうとしたんだ。
ドンッと背中を押され、女の子は必死に踏み止まる。
顔を真っ赤にして、目を白黒させて。
両腕をグルグル回し、グラグラと爪先立って。
一瞬の事で、みんな呆気に取られて突っ立ったまま。
男の子は女の子の必死の仕草がおもしろかったらしく、指をさして笑ってた。
その時・・・
花梨ちゃんが素早く駆け寄り、女の子の腕を引っ張って助けた。
『余計なことすんな! ブス!』
男の子は、花梨ちゃんに向かってそう吐き捨てた。
花梨ちゃんは無言で男の子に振り向き・・・
原水プールに男の子を、思いっきり蹴り落としたんだ。
もう、その後は騒然。大パニック。
先生たちやPTAも巻き込んでの大騒ぎになった。
大人たちは、まず花梨ちゃんに謝罪させようとした。
突き落と・・・いや、蹴り落とした事をまずは謝りなさい。話はそれからだって。
それに対する花梨ちゃんの主張は一貫して変わらなかった。
『コイツがあの子に謝ったら、あたしもコイツに謝る』
あたしは花梨ちゃんを応援した。
応援って言っても、別に何ができたわけでもないけれど。
でもあたしは絶対に花梨ちゃんの味方だった。
だって当然だ。
女の子は落ちずにすんだ。
男の子は落ちた。
結果は大きく違った。
でも、花梨ちゃんと男の子の行為はまったく同じだ。
花梨ちゃんが責められるなら、まずは男の子の方が謝罪をするべきだ。
それに・・・
理屈がどうこうより、あたしは花梨ちゃんの親友で味方だ。
応援したい。それが全てだった。
だから周囲が派手にモメ続ける中、あたしは花梨ちゃんを応援し続けた。
その後、男の子は二度と女の子をイジメなくなった。
どんな話がついたのかは、分からない。
『よそ様のプライバシーにも関わる事だから』
そう言って花梨ちゃんが詳しく話してはくれなかったから。
でも・・・
『七海ちゃん、応援してくれてありがと』
花梨ちゃんは笑顔であたしにそう言ってくれた。
とても素敵な笑顔だった。
その時の笑顔を・・・あたしはきっと一生忘れないと思った。




