(3)
唇を噛んで絶句したままの花梨ちゃんが、こっちを向いた。
そして、ひとつ大きな息をつく。
「七海ちゃん」
「・・・なに?」
「選んで。どうしたいの?」
「・・・・・」
「どうしたいのか。そして、どうするのかを選んで」
花梨ちゃん・・・。
あたし・・・あたし・・・。
あたしは目を閉じて俯いた。そして、言った。
「ごめんね。花梨ちゃん」
もう決めたの。あたし。
確かに苦しいし、悩んでる。でも悩んでるからこそ決めたの。
あたし、決めたのよ。花梨ちゃん。
「・・・・・そっか」
花梨ちゃんがぽつりと答えた。そして、あたしにこう言った。
「じゃあ、あたし達絶交だね」
そしてクルリと背を向けて、スタスタと歩き出した。
こっちを振り向きもせずに。
あたしは黙ってそれを見送る。
どうしたいのか。望むだけなら個人の自由。
ただ、それを実行するかしないかで、天と地ほどの差が生まれる。
つまり、そういう事だ。
あたしが選んだ事は、花梨ちゃんに絶交されてしまう事。
これも数多い「試練」のひとつなんだろう。
強要も強制もできない。
「あたしの味方をしなさい!」
なんて事は、たとえ親友相手にもできないんだ。
しちゃいけない。
だからあたしは花梨ちゃんの意思と決定を尊重するよ。受け入れるよ。
寂しくて悲しいけれど。
花梨ちゃんは振り向かずに歩いていく。
大地とすれ違う時、チラッと横目でその姿を眺めていた。
その目は・・・
なんだか少し、うらやましそうに見えた。
そのまま花梨ちゃんは、あたしから去って行ってしまった・・・・・。
「あいつ、検事とかに向いてそうだなぁ」
花梨ちゃんが去った方を見ながら、大地が言う。
そのしみじみ実感した風な言い回しがおかしくて、少し笑えた。
「そうだね。向いてそう」
「もっと良い意味でいい加減になった方が、人生楽になれると思うけどな」
「あれが花梨ちゃんの生き方なんだから、変わらないよ」
子どもの頃から、正義感が強くて意思が強くて。自分を曲げない。曲げられない。
そんな不器用な所もカッコいい。
花梨ちゃんの生き様を現すエピソードはたくさんある。




