(5)
その反面。
やっぱりこの胸は罪悪感にひどく痛む。
花梨ちゃんが言ってたあの言葉が胸に甦る。
「ねぇ大地」
「なんだよ?」
「略奪行為は犯罪行為って、やっぱり思う?」
「・・・・・」
「正直なとこ聞かせてよ」
あんたはどう思う?
あたしは・・・もっともだと思う。
人の恋を、しかも自分の実の姉の恋人を奪おうとするなんてさ。
普通の感覚でいって、あたしはひどい人間だ。
ひどい事をしようとしている。その罪悪感が心のブレーキを踏もうとしてる。
待て。ここで踏みとどまれって。
「あのふたりが結婚してんならな」
「・・・・・」
「法的に保障されてるもんを略奪するなら、そりゃ犯罪行為だろ」
「・・・うん」
「でも、まだだ」
「・・・うん」
「だからさ、今が最後のチャンスなんだよ」
うん。
あのふたりが結婚しちゃったら。
それこそ、あたしがしようとしてる事は犯罪行為だ。
だから今しかない。手に入れるチャンスも、諦めるチャンスも。
もしもあの二人が結婚して。
その後もあたしが、ずーっとこんな感情を柿崎さんに対して持っていたら。
それは最悪だ。あたし達全員にとって。
だから、今が最後のチャンスなんだ。
「七海、犯罪行為とかじゃなくてさ」
「なに?」
「試練って考えろよ」
「試練?」
「あぁ、運命の恋につきものの、試練ってやつだよ」
「・・・・・」
「これは試練なんだ。オレ達全員に与えられた、運命の恋を確かめるための試練」
試練の先に答えがあるんだ。
誰が結ばれるべき相手なのか。
運命の恋の、真実の相手は誰なのか。
それを知るために、試練を超えなければならないんだ。
・・・言い訳がましいと思う。
しょせん、正当化して罪悪感を減らそうとしてるだけだって。
でも止められない。
このままだと、いつか爆発するのは目に見えているから。
どっちにしろ破裂するなら、せめて最悪の状況下でだけは避けたい。
大好きなお姉ちゃん。
よりによって何でお姉ちゃんなんだろう。なんで他の人じゃなくてお姉ちゃんなんだろう。
それこそが試練なのかもしれないけれど。
試練を試す時は、今しか無いから。
この気持ちが暴発してしまう前に。大好きなお姉ちゃんを、本気で憎んでしまう前に。
あたしは・・・恋を叶える試練の道を進むんだ。
あたしと大地は見つめ合う。
そして無言で、ガッチリと握手を交わした・・・。




