(3)
うまく動いてくれない両足。
衝撃のあまり、感覚が変になってしまってる。
流れてくる涙を手で拭きながら、ひたすら歩きまくった。
ただもうメチャクチャに。
頭の中はカラッポなまま。何も考えられない。もう、呼吸するだけで精一杯で。
その時、突然スマホが振動した。
まるで何かの合図のように。
すがり付くような思いで、あたしはスマホを取り出す。
「・・・・・はい」
『よお、七海か? オレオレ』
「・・・・・・・」
『オレだよ、大地』
「・・・・・・・」
『おい、なに警戒してんだよ? あの時アドレス交換しただろ? 忘れたのかよ』
大地・・・。
柿崎 大地・・・。
今この時に電話してきた相手が、よりにもよってこの男だなんて。
・・・もう、ダメ。我慢できない。
「う・・・」
『・・・おい?』
「う・・・えぇ・・・」
『おいって』
「うえぇぇぇ~~・・・」
『お、おいっ!? どしたよおいっ!?』
スマホを握り締め、ぼろぼろ涙をこぼして大声で泣く。
「また迷子になっちゃったよおぉ・・・」
『はあぁ!? なに!? まいごぉ!?』
「ここ、いったいドコなのよおぉ~~・・・」
・・・・・。
ぐすぐすと泣き続けるあたし。
通りを歩く人達がチラチラと遠慮がちに眺めて行く。
でも人目なんか気にしてられない。
そんな事より、自分の感情に向き合うので精一杯なんだもん。
あたしは泣き続けながら、夕暮れの街角に立ち尽くしていた。
「お・・・お前、なぁ・・・」
聞き覚えのある声。
頬の涙を手でこすりながら顔を上げた。
大地だ。
自転車にまたがり、息を切らして目の前にいる。
「女子高生がこんな所で泣いてんじゃねーよ」
「・・・・・」
「さらわれたらどうすんだよ」
「うえぇ・・・」
「だから泣くなって」
「うえぇぇ~~・・・」
「おいっ。オレが泣かしてるって誤解されるだろが」
だってだって・・・
あんたの顔見たら、また涙が溢れてきちゃったんだもん。
あんただったら分かってくれるでしょ? この気持ちを。
あたしがベソベソ泣くのを見ていた大地が、がしがしと頭を掻いた。
そして、ちょいちょいと右手の人差し指を曲げる。
・・・え?
「ちょっと来い」
「・・・」
「いいからついて来いって」
自転車を押しながら、歩き出す。
あたしはその背中をぼんやりと見て・・・テクテクと後について一緒に歩き出した。




