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だめだめっ!

ペースに飲まれちゃだめっ!

負けるなあたし! 平常心だ! 正義は我にあり、だっ!!


「なにさっ、いきなり哲学者みたいなこと言って」

「かっこいいだろ?」

「全然! 上から物を言ってカンジ悪い!」

「そりゃお前が座り込んでるからだろ」

「そーゆー物理的な事だけじゃないっ」

「つまりオレが言いたいのは・・・」

「なにさ!」

「オレ達の恋だって、この世でたったひとつの特別な恋なんだよ」


・・・・・。


だからっ!

感動しちゃだめだって! あたしっ!!



『特別な恋』

それはあたしだって分かってる。充分にっ。

でもだからって・・・!


「なあ、なんで諦めなきゃならないんだ?」

「それは、お姉ちゃんの最後の奇跡のっ・・・」

「だから、最後って決め付けるのは失礼だって」

「うっ・・・」

「奇跡ってのも、なあ・・・」

「なにさっ」

「オレ達だって運命の恋なんだぞ?」

「・・・・・」

「あっちの恋は上等で、オレらのは下等か? 品評会で決定でもされんのか? 一等、三等って」

「べ、べつにそんな・・・」

「下等な恋はガマンしなきゃならないのか? 一等に恋をゆずらないとならないのか?」


そ・・・

そんなこと言ったって、だって・・・。


「お姉ちゃん達はもう、恋人同士なんだもん」


そうだよ。それに尽きるんだ。なんだかんだ理屈をこね回したところで・・・。

もうあの二人は恋に落ちてしまっているんだ。

お互いを決めてしまったんだから。あたし達がどうしたって・・・。


「今はな」

「は?」

「今はそうでも、未来は違う。オレが一海さんを奪うんだから」

「だからどーしてそうなるのっ!」


なんでジャマしようとするの!?


「どーしてそーゆー発想になるかな、あんたって!」

「オレにしてみりゃ、お前の発想の方がよっぽど不思議だ」

「なんでよっ」

「なんでジャマしようとしねえんだ??」


心底、不思議そうに聞いてくる。

こいつって・・・。

本っっ当ーに、根性曲がってる?? そんなに不思議に思う事? これって。


「先に恋人になったからって、なんだよ。恋愛は早い者勝ちか? 早けりゃ全てが許されるのか?」

「いや、許すって・・・」

「それで言ったら、オレの方が出会いが早かった。なら権利はオレにある」

「権利って問題じゃ・・・」

「それに、一度恋人になったら、一生死ぬまでその相手といなきゃならない法律でもあんのか?」

「・・・」

「その後で、別の人間と恋をしたら死刑にでもなるのかよ」

「・・・・・」

「この先、別の人間と恋するかもしれないって可能性は、そんなに罪か? 重大犯罪なのか?」


・・・。

・・・・・。

なんか・・・

頭が混乱してきたよーな・・・。


「だ、だって・・・」

あたしはすっかり勢いの弱まった口調で反論する。

だって、だって・・・。


「だってそれは、あんた側だけの理屈じゃん」


そうだよ。そうだ。こいつの言ってる事は、こいつだけの理屈。

こいつだけに通用するへ理屈だ。


「お姉ちゃん側の、ジャマされる側の都合も気持ちも、まったく考えてあげてないじゃん」

「そんなの当然だろ」


弱まるあたしの口調に対して、こいつはさっきからまったく変化なし。

実に自信たっぷりだ。


「蹴落とそうってライバルの都合なんて、こっちが考慮してやってどうすんだよ。んなもん考えてられっかよ」

「だから、そーゆー考え方が・・・」

「オレはオレだ。オレの都合を最優先する。それは当然の個人の権利だろ?」

「・・・」

「向こうが向こうの権利を最優先するのもちゃんと認める。その上での平等なガチ勝負だ」


だ・・・って・・・。


あたしは、なんとか反論しようとする。反論の材料を必死に頭の中で探す。


「だって、自分の兄でしょ?」

「ああ。そうだ」

「自分のせいで傷ついていいの?」


家族なんだよ? 自分の兄だよ? 姉だよ? 大切じゃないの?

自分のその手で傷つけていいの? 涙を見てもいいの?

家族の絆が壊れても平気なの?

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