(5)
・・・・・。
連れてった?
お姉ちゃんを、あのカフェに?
柿崎さんのいた、あのカフェに?
あんたが?
・・・。
・・・・・・・・。
こ・・・
この・・・・・
「この大ばかやろ―――――っ!!!!!」
あたしは大絶叫した!
両手で足元の小石を拾って、思いっきり投げつける!
「うわっ! なにすんだよっ!」
「ばか! ばか! ばか―――!!!」
何度も何度も、繰り返し叫んで石を投げつけた。
叫んでも叫び足りない! 石を投げても投げ足りない!
あんたが・・・
あんたが余計なことさえしなきゃ・・・!
「あんたが余計な事さえしなきゃ、二人は出会わなかったのに!!」
止まっていた涙がブワッ!とあふれてきた。
悔しい! くやしいっ!!
こいつのせいだ! みんなこいつが悪いんだっ!
「なんなんだよ! いったい!?」
あたしの投げる石をよけながら怒鳴り返してくる。
あたしはかまわず、どんどん石を投げつけてやる。そして叫び続ける。
「二人が出会わなければ、あたしは失恋しなかったのに!」
「・・・?」
「あたしが柿崎さんを諦める事もなかったのに!」
「・・・・・」
「お姉ちゃんに柿崎さんを取られる事もなかったのに!」
言葉が止まらないっ。
言いたくて言えなかった感情が、火を噴いて暴れだす!
「本当は、あたしが柿崎さんと結ばれるはずだったんだから!!!」
火を噴く言葉は止まらない。次々と噴き出す。
いいんだ。やめるもんか。全部全部、すべてこいつにぶつけてやる!!!
「運命の恋だったんだから! 運命の恋を自分の姉に取られたんだよ!? よりによって自分の姉に! 血の繋がった実の姉に! それがどれほど苦しいか分かる!!?」
毎日、毎日、毎日。
休みなく失恋が続くんだっ。
お姉ちゃんの顔を見るたびに思い知らされるから。
『彼が選んだのは、あたしじゃない』って!
なのに笑顔を張り付けて、話を合わせて、楽しげに声を上げて笑わなきゃならないんだ。
よかったね、お姉ちゃん。
がんばってね、お姉ちゃん。
応援してるよ、お姉ちゃん。
そのたびに、このうえなく幸せそうなお姉ちゃんの笑顔が。
彼を手に入れたお姉ちゃんの笑顔が。
あたしの・・・
あたしの運命の人を奪ったお姉ちゃんの笑顔が!!
あたしがこんなに毎日毎日、苦しむのは、苦しくて悲しくて、たまらないのは、全部あんたのせいじゃないかっ!!!
柿崎さんをあたしに返せっ!
運命の恋をあたしに返せっ!
あたしに土下座して謝れ―――っ!!!
泣きながら絶叫した。ゼエゼエ息が切れる。
少し時間がたって、呼吸が整ってきて・・・
そしてあたしは、ヒザを抱えて泣いた。
「ふえぇぇ――・・・・・」
わかってる。これはただの八つ当たり。
こいつがあたしに土下座する必要なんかない。
こいつには責任なんかない。こいつは悪くない。
悪いとか悪くないとか、そもそもそーゆー問題ですらない。
ただ・・・
じゃあ、どうすればいいの? このどうしようもない苦しみを。
誰にも責任がないなら、なぜあたしはこんなに苦しむの?
誰にも原因がないのに、こんなに悲しまなきゃならないの? こんなに耐えなきゃいけないの?
ただ、あたしただ一人だけがっ。
そんなの・・・ヒドイよ。理不尽だよ。ありえないよ。
なんでこんなに・・・頑張って耐えなきゃならないの・・・?
なんでこんなに苦しむのよ・・・。




