(3)
「見覚えあるだろ?」
「ない。あんだだれ?」
「柿崎 大地だ」
「かきざき だいち? やっぱ知らな・・・」
つんっ・・・!
って、なにかが頭の中で引っかかった。
・・・・・。
やっぱり知らない。知らないけど。
けど・・・なにか・・・。
柿崎・・・。
・・・・・。
柿崎っっ!?
「そう。柿崎拓海はオレの兄貴だ」
そいつはニヤッと笑った。
あにきっ!!? 今こいつ、柿崎拓海は兄貴って言った!!?
じゃ・・・
じゃあ、こいつ・・・
「柿崎さんの弟っ!?」
「おう」
「うええぇっ!!?」
うおあぁぁぁっ!!? びっくり―――――――っ!!!
「驚いたか?」
「驚いた! だって・・・」
「ん?」
「だって全然似てない! お兄さんはあんなにイケメンなのに!」
「お前なぁっ!」
だってホントだもんっ似てないじゃん全然っ。
それもそうなんだけれど、なによりも・・・。
弟さんがいたんだーっ。 しかもあたしと同い年! しかも同じ学校!
あたし、柿崎さんの弟と、ずーっと同じ学校に通ってたんだー!!
すっごい偶然! こんなのってアリ!?
十年間片思いしてる、名前も知らない彼の弟とずっと同じ学校だったなんて!
いやぁ、つくづく感じちゃうなぁ。 こう、なんつーか運命的な・・・
・・・・・。
「おい」
「・・・・・」
「おいって」
「・・・・・」
「急にどうしたよ」
「・・・ほっといて」
落ち込んだ。
ずうぅ―――ん、って、きた。
『運命』って単語、今あたし禁句なの。ものっっすごいフラッシュバックがくるから。
悶絶ものの心理的負担が襲い掛かってくるのよ。
あぁ、もう。
最近お姉ちゃんに毎日、傷口のかさぶたを引っぺがされてるけど・・・。
自分でかさぶた引っぺがしたうえ、度数の強烈なアルコールぶっかけちゃったカンジ・・・。
「なんだよいったい。さっきまで怒鳴ってたくせに」
「ほっといて」
「気分の浮き沈みの激しいヤツだな」
「ほっといて」
「お前、人の事言えねぇだろ」
「ほっといて」
「お前だって一海さんと全然似てねぇよ」
「ほっと・・・ えっ?」
なに?
「一海さんは、あんな素敵な女性なのになぁ」
・・・・・。
「あんた、お姉ちゃんの事も知ってんの?」
「知ってる」
ふうん、柿崎さんから紹介されたのかな? たぶんそうなんだろうな。
それにしても人見知り大王なお姉ちゃんが彼氏の家族と会うなんて。
すごい勇気が必要だったろうな。
・・・。
お姉ちゃん、ひとりで頑張ったんだね。すごいよ、お姉ちゃん。えらいよ。
よし! ここはひとつ妹として、あたしがフォローしてあげなきゃ。
「うちのお姉ちゃん、すごい人見知りなの」
「知ってる」
「ちゃんと会話できてた?」
「ああ、一応な」
「彼氏の弟だから、よけいに緊張すんのよ。許してやってよね」
「・・・・・」
「なにかあったら柿崎さんがフォローしてくれるから」
「一海さんと会ったのは、オレの方が先だ」
「え?」
「オレがまず、一海さんと出会ったんだ」
あんたが先にお姉ちゃんと会ってたの?
あぁ、そうなんだ。順番が逆だったんだ。
ふーん。それにしても・・・。
「いったいどこでお姉ちゃんと?」
なにしろ、あのお姉ちゃんだからなー。
普通に会おうとしても、なかなか会えるもんじゃない。
遭遇確率は、かなり低い。激レアアイテム並みに低いはずだけど。
「一年以上前になるな。セミナーで一緒だった」
「セミナーって言うと・・・」
ああっ! あったあった!
化粧品メーカーのメイクの無料セミナーがっ!!




