(7)
「よかったね、お姉ちゃんっ」
「七海」
今、あたしの笑顔って大丈夫かな? 引き攣ってないかな?
「あたし、怒ってなんかいないよ」
「七海・・・」
「お姉ちゃんって気にしすぎだよー」
しかたないんだ。
これはしかたのない事なんだ。
諦めるしかないんだ。
あたしは確かに柿崎さんの事が好きだった。十年もの間。
それは・・・今でも変わらない。
でも・・・じゃあ、どうする? 二人に話す?
十年前に、あーだこーだで、あたしは柿崎さんが十年間も好きだったんだから!って?
それで?
どうなるの? どうにかなる?
どうにもならない。
あぁ、そうだったんですか。で終わってしまう。
そんなこと言われても・・・で終わってしまう。
だってもう、柿崎さんはお姉ちゃんが好きなんだから。お姉ちゃんを選んでるんだから。
その事実はなにも変わらないんだから。
どっちにしろ、なんにしろ
どーしたってこーしたって
あたしは黙って諦めるしかないんだ。
「お姉ちゃん、あたし応援するからっ」
そうだよ、夢だったんだ。
ただの夢。
十年っていう長い月日をかけた夢だったけど・・・。
でも夢は夢。いつか醒める。そのいつかが今日だったんだ。
「お姉ちゃんの奇跡の恋を応援するからね!」
せめて、これ以上ミジメにならないように。
もうこれ以上傷つかないように。
十年の恋を忘れたふりをしながら、応援しよう。
そして少しずつ少しずつ時間をかけて・・・
いつか本当に忘れよう。
「ありがとう七海」
頬を赤く染めたお姉ちゃんの笑顔。
お姉ちゃんは幸せなんだ。柿崎さんも幸せなんだ。だから二人を祝福して応援すべきなんだ。
あたしの恋なんてジャマになるだけなんだから。
そうするべきなんだ。
そうするのが正しい道なんだ。
そうしなきゃいけないんだ。
そうだ そうだ そうだ
絶対そうなんだ。
キリキリと絞られるような痛みを胸に感じる。
柿崎さんの笑顔が浮かぶ。十年前の笑顔と一緒に・・・。
あたしは振り払うように頭を振った。
全部ぜんぶ忘れよう。それがいい。それでいいんだ。
忘れよう。忘れてしまおう・・・・・。




