運命と現実(1)
えぇーっ!? なんでっ!? なんでお姉ちゃんがここに!??
よりにもよって、お姉ちゃんが・・・
お姉ちゃんが・・・カフェェっ!??
いや、自分の姉がカフェに来たくらいで、こんなに驚くのもなんなんだけど・・・。
でも他の人ならともかく、お姉ちゃんは特別なんだ。
うちのお姉ちゃんは体が弱い。生まれた時から虚弱で、しばらく入院していた。
なんとか退院できてからも、ずっと病気がち。
しょっちゅう体調崩しては、入退院を繰り返していた。
大人になってもなかなか虚弱体質は治らなくて・・・。
そのせいで就職は無理だってことで、学校を卒業してから家で家事をしている。
だから・・・
すぐに疲れて体調を崩す。
↓
それが怖くて外出しない。
↓
外出しないから道を知らない。
↓
しかも彼女は方向音痴。
↓
さらに迷子に磨きがかかる。
↓
それが怖くて外出しない。
と、まあ・・・
実に見事な負のスパイラルに陥っている人なんだ。
用事があって外出させる時は、お母さんとあたしと二人がかりで前日から説得工作が必要で。
わが姉ながら、外出に関してはホントにメンドくさい人なのに。
なのに・・・。
「お姉ちゃん、どうして・・・」
「やあ、一海」
・・・・・え?
「一海、ちょうど良いところに来たね」
え・・・・・? 柿崎、さん??
なんで?
なんで柿崎さんが、うちのお姉ちゃんの名前を知ってるの??
二人は知り合い?? しかも・・・
『一海』って呼び捨て・・・??
「拓海」
お姉ちゃんが、そう言いいながら入り口からこちらに向かってくる。
『拓海』?
・・・・・。
お姉ちゃんは・・・お姉ちゃんは・・・こーゆー人だから、男の人に免疫がなくて・・・
男の人を呼び捨てなんて、しない。
絶対、しない。
なのに・・・。
お互いに呼び捨てしあう、その声に・・・
あたしの心臓は、急にイヤな音を立て始める。
どくん。
柿崎さんが立ち上がって、お姉ちゃんに向かって歩いていく。
そして・・・
「一海」
そして柔らかな微笑で、お姉ちゃんの肩にそっと手を置いた・・・。
「一海、驚いたろ?」
「あ、ええ、・・・本当に」
いたずらっぽい表情で、柿崎さんがお姉ちゃんに話しかけてる。
お姉ちゃんはキョトンとした丸い目をして、柿崎さんとあたしを見比べてる。
「七海ちゃんはね、偶然この店に来たんだよ」
「偶然?」
「偶然この近所で、迷子になったんだって」
「迷子に?」
お互いを見つめ合いながら会話を続けている二人。その二人を、あたしは黙って見ている。
どくん、ってイヤな心臓の音を聞きながら。
「そう、迷子。さすがは一海の妹だなって思ったよ」
「まあ、拓海ったらヒドイわ」
「あはは、ゴメンゴメン」
ぷくっと膨れるお姉ちゃん。楽しそうに笑う柿崎さん。
・・・お姉ちゃんの肩に手を乗せたままで。
どくん。どくん。
「あ、七海ちゃんごめんね。別に迷子になったのを笑った訳じゃないんだ」
不意に柿崎さんが、あたしに話しかけてきた。
「あ・・・」
うまく返事ができない。
いえ、とか、あ、とか、ごもごもと口の中だけで答える。
「あの、七海」
お姉ちゃんがあたしに話しかける。
とても恥ずかしそうに。
なにかを、言いにくそうに。
聞きたくない。胸がゾワゾワする。ゾワゾワして、すごく落ち着かない。
夢・・・
あたしの夢が・・・。




