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「お待たせしました」

柿崎さんが扉を開けて入ってきた。

あたしと花梨ちゃんは会話を止めて、すまし顔。


「オリジナルブレンドと、アイスレモンティーです」

そっとテーブルの上にカップとグラスが置かれる。

その動きの優しさ。指先のしなやかさ。

うーん、さすがね! こーゆー単純な動作にも、人柄って表れるのねー!


あたしはコッソリ柿崎さんの顔を盗み見た。こうして見ると・・・


あたしの好みー!! もろっ!!


顔全体がね、優しそうなのよ。柔らかい雰囲気で。

きっと性格も優しくて柔らかいに違いない。声も態度も、それを証明してる。

よかった――! あたし、ゴツくて濃いの苦手だから!

もしゴッツイ系に柿崎さんが成長してたら、運命呪ってたかも。


さーてと、さっそく話しかけたいけど・・・。

(なにを? どうやって??)


うぅ~ん・・・。

グラスの中のスライスレモンをストローでいじくりながら、悩んでしまう。

う~~ん! 話しかけたい!!

でも、きっかけが見つからないっ!! やっぱり緊張しちゃうし!!

マシンガントークは得意技なのに、いざとなると役に立たないなんて。


花梨ちゃんは知らない顔でコーヒー飲んでるし。

んもぅ、親友でしょーっ!? 助けてよっ! へその緒よりも固い絆はドコいったの!?


「あ、あの~・・・」

とりあえず、深い考えもなしに話しかけてみた。

「ん? なあに?」

柿崎さんが笑顔であたしを見つめる。


あぁ・・・ドキドキする。あたし、見つめられちゃってる・・・。


「どうしたの? 七海ちゃん」

どうしたのと言われても・・・。もう、ドキドキしちゃって・・・。

それにそもそも、何を話せばいいんだかも決めてなかったし。


「あの~、えーっとぉ・・・」

「ん?」

あぁ、もう!

もじもじソワソワしちゃうー!!


「えぇ~っとぉ~・・・」

「あ、ああ失礼」

「え?」

「トイレならそのドア・・・」

「い、いえ! そーじゃなくてっ!」


がぁ――ん!

こ、恋する少女のソワソワを、おしっこガマンしてると思われてしまった・・・。


花梨ちゃんが鼻から小刻みに息をもらして、必死に笑いをこらえてる。

ひどいー!! 笑うことないじゃん!!

も、へその緒の絆なんて信じないからっ! 絆なんてぶった切っやる! へその緒の裁断だ!!


赤い顔で睨みつけるあたしをニヤニヤ見ながら花梨ちゃんが口を開いた。

「このコーヒー、すごく美味しいです」

「そう? 嬉しいな」

「あ、すみません。立たせっぱなしで。どうぞ座ってください」

「いいの? ありがとう」


花梨ちゃんにすすめられて柿崎さんがあたし達のテーブルの席に座った。

そしてニッコリあたしに向かって微笑む。


ナーイス!花梨ちゃん!! へその緒の絆も即座に復活っ!!


「七海ちゃんは、お味はどう?」

「お、美味しいです! すっごく!」


『美味しいアピール』のために、慌ててストローでゴクゴク一気飲み。

つ、冷たい! ノドがキィーンと南極状態!


「ありがとう七海ちゃん。嬉しいよ」


にっこり・・・。あぁ、柿崎さんの笑顔があたしに・・・。

あたしこそ嬉しいですっ。

たとえノドとこめかみが南極でも、心は常春の桃源郷です!


「本当に嬉しいよ。僕も今、色々と不安でさ」


ん?

不安??


柿崎さんの言葉に、あたしのアンテナがピピッと反応した。


「不安って何がですか?」

「この店をまかされてから、まだあんまり日が経っていないから」

「え?」

「ここ、もともとは僕の店じゃないんだよ」


ピクピクン・・・!

ますますあたしのアンテナが反応する。

なになに? なんか、重要そうな話題になりそうな予感!

突っ込んで聞いたら、ふたりの仲が深まりそうな話題じゃない?

きっとそうよ、絶対、そうっ!

こーゆー時の女の直感て、超能力者並みに働くんだからっ。


「ここ、柿崎さんのお店じゃないんですか?」

「うん、まあ、色々あって今は僕の店だけど」

「色々って、どーゆー事ですかっ?」

「ちょっと七海ちゃん。柿崎さんに失礼だよ?」


花梨ちゃんが『ほらほら! また良く見もしないでクビ突っ込んでる!』って顔で警告してる。


だってさ!

お互いの事、よく知り合わなきゃダメじゃん!

重要なことなら、なおさら知らなきゃダメじゃん!

そしたら趣味やら出身校やらをすっ飛ばして、一気に親密な間柄になれるじゃんっ!


十年も待ったんだからさ。チマチマまどろっこしい事、してらんないよ。

運命の再会をしたふたりには、徐行も一時停止もサイドブレーキもないの。

ひたすら一途に直進あるのみ!なの!


『カチャン・・・』


その時、扉が開く音がした。

お客さん?

・・・んもー。タイミング最悪っ。


運命の再会を果たした二人が、これからお互いに新密度アップを図ろうとしているとこなのにっ。

こんないい場面に、のこのこと!

ジャマしないでよね! 別のカフェに行ってよ。別のカフェに!


キツイ視線であたしは振り返り・・・

そして、すっっかり驚いてしまった!


「お・・・」

「・・・あら?」

相手も同じくすっかり驚いて、入り口で立ち尽くしてる。


えぇ―――っ!? こんなことってあり!?

ウソウソ!? 

お、お・・・・・


「お姉ちゃあんっ!?」

「七海!?」


そう! お店に入ってきた邪魔者は・・・

なんと、偶然にもあたしのお姉ちゃんだった!!

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