(3)
あぁもう、さっきからテンション上がりっぱなし。
このまま騒ぎまくると、あたしの方が不審者として通報されそう。
とりあえずあたしは落ち着くためにも花梨ちゃんと席に着いた。
「ところで七海ちゃん達は、どうしてここに?」
王子様が少し不思議そうに聞いてきた。
「ずいぶん驚いていたみたいだし、僕に会うために来たわけじゃないよね?」
いーえっ!
あなたに会うためですっ! そのためにあたしはこの世に生まれて来たのっ!!
あなたの事がずっと好きでしたー!!
って叫びたいところをグッとこらえて、できるだけ冷静に答える。
「あたし達、実は迷子になっちゃったんです」
「迷子に?」
「それで、どこか休む所を探していたら、この店を見つけて」
「へえっ! そうなんだ」
王子様は、ちょっと興奮したみたいな笑顔になる。
「たまたま迷子になって、偶然この店を見つけるなんて、スゴイねっ」
・・・うーん。
たまたまっていうか、なるべくして迷子になったんだけど・・・。
まぁとりあえず、それは置いといて。
「本当にスゴイ偶然ですよねっ!」
「うんスゴイ! 偶然、この近くで迷子になって・・・」
「偶然、このお店を見つけて・・・」
「偶然、僕たちが会って・・・」
「こんなに偶然って重なるものなんですね!」
「いや、これだけ重なると偶然じゃないよ」
「え? じゃあ、なんですか?」
王子様は照れくさそうにあたしを見た。そして満面の笑顔で答えた。
「これは、絶対に運命なんだって、僕は思う!」
―パアアァァァ・・・―
・・・って、世界中が輝いた気がした。
ばくんっ! て心臓が大きく鳴って。体中に一気に血液が駆け巡る。
頭の中でファンファーレが鳴り響く。
信じられない。
運命って、あなた、そう言ったの? 運命ってあなたも思ってくれるの?
あぁ、どしよう。夢が叶う。
十年のせつない夢が、今やっと・・・。
なにも言葉が出てこない。こんなにもうれしい気持ちをあなたに伝えたいのに。
十年・・・
十年間、ね、あたしも思ってたんだよ。
あなたは『運命の王子様』だって信じて。
でもすごく寂しかったんだよ。
会うこともできず夢に見るだけの日々。せつなくてせつなくて・・・。
だって名前すら知らな・・・
・・・・・
・・・
あ―――――っ!!!
「すいまっせ――んっ! ところであなたのお名前はーっ!?」
そーだった!
あたし、運命の相手の名前も知らないんだった!
ここでまたウッカリ名前を聞き忘れたりしたら・・・
あたし、正真正銘バカじゃん! もう言い逃れできないほどバカじゃん!
聞ける時に聞いとかないと。今、聞いとかないと。
明日なにが起こるか分かんない。
どんな事態が起こるかなんて予想もつかない。
それはもう、ドブに落っこちた時にイヤっていうほど体験済み。
だから王子様!
名前、教えてくださいっ!!
目をギラつかせて立ち上がったあたしに、再びビビる王子様。
我ながら怖いだろうなぁ。かなり。
花梨ちゃんの呆れた溜め息が聞こえたけど・・・
うるさいなー、もうっ!
このさい、なりふりかまってらんないの!
「あ・・・僕の名前、知らない?」
「はい! だから教えて!!」
「う、うん。僕の名前は・・・」
名前はっ!!?
「 柿崎 拓海です。よろしくね」
小さくお辞儀をして、笑顔であたしを見つめながら王子様・・・
ううん、柿崎さんはそう言った。
柿崎 拓海。
かきざき たくみ。
たくみ・・・。
心の中で何度もリフレイン。
完璧だわ。カンペキ。「拓海」と「七海」。
・・・・・。
海つながりじゃないのっ!!
名前まで運命的!!
どこまで完璧な組み合わせなの? あたし達って!!
あぁ、神様ありがとう! この素晴らしい運命に感謝します!!
「あの、それで柿崎さんのお年はおいくつ・・・」
「すみませーん。オリジナルブレンドお願いしまーす」
さらに運命を深めようと突っ込んだら、花梨ちゃんが冷静なひと言を発して邪魔した。
んもーっ! 花梨ちゃんっ!
「ああ、はい。オリジナルブレンドですね? 七海ちゃんは何にするの?」
「え? あ、えーとー・・・」
そうだ、オーダーしなきゃ。なににしよう。どんなオーダーすれば好印象かな?
オレンジジュースは定番すぎる。無難すぎて、可愛げがない。
やっぱりミルクティー?
いや!
逆に幼稚すぎない!? ミルクってとこが!
うぅ~~むぅ・・・
とりあえず柑橘系で爽やかな少女を演出するために、レモンティーにしておこう!




