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ハチミツ工場

作者: 辻内英祐

‐壱‐



(よいしょっ...)


(こらせっ...)



(早く...急いで...)


(色が変わる前に...)


(もっと運んで...)



甘くて良い匂い..

僕は、ゆっくりと起き上がって目をゴシゴシとこすりました。



眼鏡が無いので、よく見えませんが、どうやら、大勢の人達が、何か作業をしているようです。



(眼鏡..眼鏡...。)



右のポケットが少しふくれています。ゴソゴソと探ってみると、眼鏡は右のポケットの中に有りましたので、さっそく、取り出して、眼鏡をかけました。



(よいしょっ...)


(こらせっ...)



働いているのは、人では無くてミツバチでした。



(なるほど、この匂いはハチミツの匂いだな)



僕はそう直感しました。

近くの大きなタルを覗いてみますと、タルの中はおいしそうなハチミツで一杯です。



(これだけ一杯有るんだから、少しぐらい..。)



僕は人差し指でタルのハチミツを掬い取り、そのまま、人差し指を口の中へ運びました。

そのハチミツは、今まで食べた、どのハチミツよりも甘く、とろけるような味でした。

人差し指が止まらずに、何度もタルと口を往復しました。



と、頭がクラクラして..。



(あーあ、君、ハチミツを食べ過ぎたんだね..コレは葡萄ハチミツと言って..)



ミツバチの作業員が僕に話しかけているようですが、意識がモウロウとして、何を喋っているのか、最後まで聞き取れませんでした。



(おーい、みんな..手伝ってくれ..)


(彼を医療室まで..)


(あぁ、ハチミツ酔いしたみたいだから..)



‐弐‐



医療室のベッドでいくらか休んでいますと、意識がハッキリしてきましたので、木製の机に向かって、何か、熱心にお仕事をしている白衣のミツバチの先生に話し掛けました。



「先生、僕はどこか悪いのでしょうか..?

急に頭がクラクラして..。」



ミツバチの先生は仕事を止めて、僕の方を向いて言いました。



「悪いといえば、その人差し指でしょうなぁ..。」



「え..人差し指..ですか..?」



僕は、自分の人差し指を見て、ドキッ、っとしました。勝手にハチミツを食べてしまったことを怒られると思ったからです。



「ここで作っているハチミツには、幾つか種類が有ってね、君が食べたのは、葡萄ハチミツと言うハチミツなのだよ。」



「葡萄ハチミツ..ですか?」



「葡萄から、体に良い成分を抽出して、ハチミツに混ぜたものなんだがね、アレを食べ過ぎると、頭がクラクラしてしまうのだよ。頭がクラクラするというだけで、特に害はないから安心しなさい。ここにはたくさんハチミツが有るから、幾ら食べても構わないが、食べる前に、ちゃんと誰かに、何というハチミツか聞かないと、また医療室のベッドで休まなければならなくなってしまうから気を付けるんだよ..。」



そう言って、ミツバチの先生が、優しく微笑んだので、ホッ、っと安心しました。安心すると、お腹が空いてきました。

ミツバチの先生にハチミツ工場まで案内してもらうと、ありがとうございました、とお礼を言って、お別れしました。



‐参‐



「すみません、これは何というハチミツですか?」



ミツバチの先生に言われた通り、食べる前にハチミツについて訊ねました。



「それは、キャラメルハチミツだよ。葡萄ハチミツのような副作用は無いから、安心して食べるといい。それから、これをあげるから、ハチミツを食べる時にはこれを使いなさい。」



そう言って、ミツバチの作業員が、試食専用の木製スプーンを僕に渡しました。僕は、ミツバチの作業員にありがとう、と、お礼を言って、さっそくスプーンで、キャラメルハチミツを掬って食べてみました。

キャラメルハチミツは、葡萄ハチミツよりも、もっとずっと甘いハチミツでした。



「このハチミツは、工場一、甘いハチミツなんだよ。」



と、ミツバチの作業員が教えてくれました。



そうして、ミルクハチミツ、チョコハチミツ、スパイスハチミツ、炭酸ハチミツ、バナナハチミツ、マンゴーハチミツ、レモンハチミツ…たくさんのハチミツを食べたので、お腹が一杯になりました。



(ふぅ、一休みしよう..。)



作業の邪魔にならないように、ミツバチの作業員のいない、工場の隅の大きなタルの前で一休みすることにしました。



(一休みする前に、このタルのハチミツも少し食べてみよう..。)



作業員が近くにいないので、これが何というハチミツなのか聞かずに、スプーンで掬って食べました。それは、とても不思議な味のするハチミツでした。

僕はそのまま、良い気持ちになって、スヤスヤ、と眠ってしまいました。



‐志‐



目が覚めると、そこは僕の部屋の、ベッドの上でした。

とても、楽しい夢を見ていたような気がします。



右のポケットが少しふくれています。ゴソゴソと探ってみると、右のポケットに木製のスプーンが入っていました。



そのスプーンを眺めていると、少しだけ夢の断片を思い出すことが出来ました。



(ああ..そのハチミツは..)


(夢から覚めるハチミツ..)


(甘い夢から..目覚めるハチミツ..)



ミツバチの作業員達は、今宵も誰かの夢の中で、不思議なハチミツを、作っているに違い有りません..。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほのぼのとした雰囲気のある作品で和ませていただきました。 色々なハチミツがあるのも楽しかったですが、どんな味や色なのかもっと詳しく書いてあると想像しやすかったのではと思いました。
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