ヌヴェル06 覚えたての手品で
健一は、同じ職場の後輩にあたる真理子がここ最近覇気のないことが気になっていた。いつも陽気で笑顔が素敵な真理子だけに、元気の無さが気にかかる。
それは、仕事が関係しているであろうことは推測できた。新しいプロジェクトを任されようとしていたところ、外されてしまった。諸々の事情が重なったようだが、真理子にとってはショックだったのだろう。
健一は、落ち込んでいる真理子に以前のような笑顔が戻るよう、彼女を癒す何かをしてあげたいと考えた。
それが手品。健一は、来る日も来る日も、スマホでググっては、いろいろな手品にチャレンジしてみた。出来そうなものを修得できるよう練習を積み重ねた。元来不器用な健一は、なかなか上達しなかった。だからといって時間をかけるわけにもいかなかった。真理子のことが心配だった。
ある日、健一は真理子に声をかけた。「最近、手品を覚えてね。君に見てもらいたいんだ」
仕事帰りのファミレス。簡単に食事を終えた二人は、食後の珈琲を飲んでいる。
「じゃあ、僕の覚えたての手品を見てもらおうかな?」そういうと、健一はトランプを取り出して捌き始めた。
それからは、不器用な健一のドタバタが続く。何をやっても上手くいかない。にもかかわらず、周りはテーブルマジックを見ようと溢れた観衆でいっぱい。その誰もが、健一の下手な手品を見て、これはわざとやってるんだと笑いが渦巻き、もう無理とやめた健一は、割れんばかりの拍手に包まれた。
真理子「昨日は、ありがとう」
健一 「ああ、ちょっと無様だったね。ほんとうは、もう少し・・・」
真理子「うううん、楽しかったよ」
健一 「あっ、そう、それはよかった」
真理子「私も手品覚えようかな?こんど、教えてもらえますか?」
そう微笑んだ真理子の笑顔は、以前の笑顔にもどっていた。
下手くそな手品でも、まんざらでもなかったかなと健一は、その笑顔を見て思った。
真理子「あっ、そうだ。先輩にテレビ局の方が是非会いたいと来られてましたよ」
健一 「テレビ局?」
真理子「どうも、昨晩の手品が話題になっているとか・・・」




