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第6話 絶頂寸前の背負い投げが学園を震撼させる!

古代魔法史の授業を、遠隔セクハラによる絶頂寸前の震えと天才的な回答という、最悪かつ最高(?)の形で乗り切った私、リリア。


だが、息をつく暇もなく、休むことを知らない学園のカリキュラムは、次なる死の試練を私に突きつけてきた。


よりによって、次は『実技』ですか……。


私のこの、スライム以下のHPしか持たない王子の体で……?


王立学園の広大な屋外訓練場。


燦々と降り注ぐ無慈悲な太陽の下、男子生徒たちが剣術用の軽装に着替えて整列していた。


私(中身は侍女)もまた、更衣室の個室に引きこもって指定された訓練着をなんとか身に纏っている。


腕が細すぎます……! 


これじゃあ、木剣を振るうどころか、構えるだけで関節が外れそうです! 


ああっ、毎日重い水桶を運んで鍛え上げた、私の本来の筋肉が恋しい。


自分が今までいかに物理戦闘に特化した恵まれた肉体を持っていたかを痛感し、私は密かにため息をついた。


実技の教官は、歴戦の猛者であることを窺わせる、顔に深い傷のある大柄な騎士だった。


ひぃっ、まるで荒ぶるオークの群れを束ねるボスオークです! 


目が完全に獲物を狩る戦士の目をしてます!


「本日の実技は、一対一の模擬戦を行う! 魔法の使用は一切禁止、純粋な身体能力と剣技のみで勝負せよ!」


教官の怒声が訓練場にビリビリと響き渡る。


私は完全に顔面蒼白になった。


魔法禁止!? 剣技のみ!? 


そんなの、魔力にステータスを極振りした魔法使いに、杖を捨てて素手で殴り合えと言っているようなものです!


技術なら、脳筋のお父様にスパルタで叩き込まれた騎士の娘としての意地と経験値がある。


だが、肝心の『筋力』がこの体は完全なゼロなのだ。


素人がデタラメに振り回す木剣でも、このひ弱な体でガードすれば一撃で骨折しかねない。


「おい、相手はこの俺がやってやるよ」


ニヤリといやらしい笑みを浮かべて近づいてきたのは、熊のように大柄な男子生徒だった。


彼は丸太のような木剣を肩に担ぎ、見下ろすように私(王子)をねめつけた。


「殿下は普段、部屋に引きこもって本ばかり読んでいると聞きます。怪我をさせないよう、このジャイルズが『優しく』手ほどきして差し上げますよ」


嘘だ! 


その目は完全に、か弱いウサギを嬲り殺そうとする肉食獣の目です! 


ちっとも優しくない物理攻撃叩き込んでくる気満々じゃないですか!


周囲の生徒たちもヒソヒソとざわめき始める。


「おいおい、ジャイルズは学年でもトップクラスの腕力だぞ」

「殿下、死ぬんじゃないか? 魔法なしじゃただの案山子だろ」


ど、どうしよう……! 


こんな丸太のフルスイング、まともに受けたら私の腕が消し飛びます!


木剣を握る手がカタカタと震え、半泣きになりかけた、その瞬間。


『――ふむ。面白そうなイベントが発生しているじゃないか』


耳元のピアスから、聞き慣れた悪魔の囁きが響いた。


で、殿下ぁっ! 助けてください、魔法を使っちゃ駄目って言われて……私、死んじゃいます!


『僕は高見の見物をしているだけだ。言っただろう、危険な実技には参加するなと。適当に腹が痛いとでも言って、保健室に逃げ込めばよかったんだ』


だ、だって、そんなこと言える雰囲気じゃ……お父様の教えで、敵前逃亡は騎士の恥だと体が勝手に……!


『やれやれ、これだから脳筋の侍女は。君の本来のリリアの物理スペックなら、あんなジャイルズなど小指一本で弾き飛ばせるが……今の僕の虚弱な体では、一撃掠っただけで腕がへし折れるだろうな』


他人事のように鼻で笑う殿下に、私は明確な殺意を覚えた。


『だが、安心しろ。僕の可愛い共犯者がボコボコにされるのは忍びない。君が恐怖を忘れるような、とっておきの魔法(バフ)をかけてやろう』


「えっ?」


バフ? 


遠隔で身体強化魔法でもかけてくれるんですか!? 


さすが天才魔術師!


『王宮の宝物庫の奥底で、面白い魔導具を見つけてね。自動振動型・快楽付与石というらしい。古代の退廃的な貴族が、夜のベッドの遊びに使っていたとか』


……はい?


嫌な予感しかしない。


私の背筋に、冷たい汗が滝のように伝う。


ま、まさか、それを……私の体の、どこに……?


『もちろん、君の極上ボディの、一番感じやすいところに押し当てている』


――ブブブブブブブブッ!!


唐突に。


下腹部の奥底から、脳髄を直接激しく揺さぶるような、強烈な振動と快感が突き上げてきた。


「あッ!? ひ、んぁっ……!!」


口から、抑えきれない色っぽい悲鳴が漏れた。


膝から崩れ落ちそうになるのを、木剣を杖代わりにして必死に耐える。


――感覚共有。


殿下が私の体に押し当てている凶悪な魔道具の振動が、王子の股間にもダイレクトに、しかも何倍にも増幅されて伝わっているのだ!


あああああああ!? 


だめ、これ、だめぇぇぇっ! 


お腹の奥が、ジンジンして、頭がトロトロに溶けちゃいます! 


身体強化じゃなくて状態異常(デバフ)じゃないですか!)


「おや? どうしました殿下。始まる前から足が小鹿のように震えていますよ?」


ジャイルズが下劣な笑いを浮かべる。


彼には、王子が恐怖のあまり震え上がっているようにしか見えていない。


だが、今の私の脳内からは、恐怖などという感情は完全に吹き飛んでいた。


圧倒的な快感の波が、私の理性を丸焼きにしようとしていたのだ。


あ、あたまが、真っ白に……! 


だめ、立っていられない……理性が、溶ける……!


『模擬戦開始だ。さあ、一緒にイこうかリリア』


「はじめっ!!」


教官の無慈悲な合図と共に、ジャイルズが猛然と地響きを立ててダッシュしてきた。


大上段から振り下ろされる、必殺の木剣。


風を切る轟音が、ひ弱な王子を粉砕しようと迫る。


――ッ!!


その瞬間。


極限の快感によって思考回路が焼き切れた私の『騎士としての生存本能』が、完全に覚醒した。


うるさあああい! 邪魔です! 


早くこいつを片付けてやるう!!)


ジャイルズの剣が振り下ろされる。


私は、それを受け止めなかった。


重くて邪魔な木剣をポイッと捨て、半歩だけ斜め前に、滑るようにスライドして踏み込む。


ジャイルズの渾身のフルスイングが空を切り、彼の巨体が大きく前のめりになる。


筋力がないなら、相手の力と体重をそのまま利用する……! 


これぞ、お父様直伝のカウンターです!


私は、すれ違いざまにジャイルズの太い丸太のような腕を両手で掴み、自分の背中に密着させるようにして、腰を深く落とした。


「なっ……!?」


ジャイルズがマヌケな驚愕の声を上げる。


私は、下腹部で猛威を振るう魔導具の強烈な振動エネルギーを、そのまま投擲のための踏み込みとバネへと全変換した。


「んんんんあぁぁぁぁぁっ!!」


口から、気合と絶頂が完全に混ざり合った、戦場には似つかわしくない妖艶すぎる叫びが迸る。


細い腕がジャイルズの巨体をテコの原理で軽々と持ち上げ、そのまま前方へ――完璧な放物線を描いて、放り投げた。


ドゴォォォォォンッ!!


爆発したかのように土煙が舞い上がる。


ジャイルズの巨体が、訓練場の硬い地面に背中から激突し、白目を剥いて一撃で気絶していた。


鮮やかすぎる『背負い投げ』だった。


静寂。


風の音だけが訓練場を吹き抜ける。


教官のボスオークも、周囲の生徒たちも、信じられないものを見たような目で完全に硬直していた。


「はぁっ……はぁっ……んっ、くぅ……!」


土煙の中心で、私は肩で激しく息をしていた。


口からは熱い吐息が漏れ、立っているのがやっとで、自らの体を抱きしめてプルプルと子鹿のように震えていた。


「……一撃、だぞ」

「あんな巨体のジャイルズのフルスイングを躱して、魔法も使わずに、ただの体術で……!」

「見ろよ、あの殿下の表情……」


生徒の一人が、ガタガタと震える指で私を指差した。


「人を一人ゴミのように投げ捨てておいて……あんな、恍惚とした、妖しい笑みを浮かべている……ッ!」

「背筋が凍るぜ。なんて嗜虐的なんだ。俺たちを撫で斬りにする虫ケラとしか思ってないんだ……!」


違います! 


大誤解です!


私はただ、股間で暴れ狂う魔導具の快感に耐えきれず、顔がだらしなくとろけているだけなのだ。


頼むから誰か、この振動状態異常を解除してほしい!


『……ほう。まさかその脆弱な体で、体重が倍以上ある男の攻撃をいなして投げ飛ばすとはな。君の記憶に刻まれた戦闘経験値には恐れ入るよ』


ピアスの奥から、殿下の心底感心したような声が聞こえる。


同時に、下腹部の狂ったような振動がふっと消え去った。


「ぁ……」


た、助かった……。


快感の波が急激に引き、代わりにどっと重たい疲労が押し寄せる。


私の細い足が限界を迎え、ふらりとその場に倒れ込みそうになった。


「殿下ッ!!」


慌てて駆け寄ってきたのは、ボスオーク教官だった。


彼は崩れ落ちる私をガシッと抱きとめると、感極まったように大声で叫んだ。


「素晴らしい……! 実に素晴らしい体術です! 我が国の王家に、これほどの武術の才を隠し持つ御方がおられたとは! この老兵、魂が震えるほど感動いたしましたぞ!!」


え、あ、いや……ただの生き残るための物理カウンターで……。


「しかも、相手を投げた後に見せたあの冷徹かつ恍惚とした微笑み! 実戦を想定した完璧な残心(ざんしん)! 第一王子派のジャイルズなぞ、殿下の敵ではありませんな!!」


教官が男泣きして喜んでいる。


周囲の生徒たちも、恐れ慄きながらも「ギルバート殿下、万歳!」「武神の再来だ!」と割れんばかりの拍手喝采を送り始めた。


……終わった。


私は、教官のむさ苦しい腕の中で真っ白な灰になって燃え尽きていた。


目立たず、ひっそりと影のように学園生活を送るはずが、初日の午前中にして「古代魔法の天才」かつ「近接格闘の鬼」という、どう考えても目立ちすぎる最強の称号を手に入れてしまったのだ。


『くくっ、よくやったぞ僕の可愛い影武者。これで君は、学園中の注目の的だ。ますます目が離せなくなったよ』


……全部、殿下のせいです。このド変態魔王……。


魂からの小さな絶望の抗議は、熱狂する生徒たちの歓声に無情にもかき消された。


私の理性がゴリゴリ削られる入れ替わり生活は、まだ始まったばかりである。

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