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第2話 殿下のエクスカリバーが暴発!?

寒気で目が覚めた。


王宮の石造りの部屋は冷たい。


だが、それ以上にこの体の芯から湧き上がるような、底知れぬ冷たさが私を震え上がらせた。


「う、ぅぅ……さむい……」


私――リリアは、重たい瞼をこじ開けた。


視界が高い。


そして、見慣れない豪奢な天井のシャンデリアがぐにゃりと歪んで見える。


記憶がフラッシュバックする。


掃除。黒魔術。暴発。


そして、入れ替わり。


夢じゃ……なかった……!!


神様、日頃の神殿への寄付(銅貨一枚)が足りなかったのでしょうか!?


現実逃避したい脳髄に鞭を打ち、上半身を起こそうとして、見事に失敗した。


腕に全く力が入らない。


まるで枯れ枝のような細い腕が、最高級のシルクのシーツの上で小刻みに震えている。


これが、第三王子ギルバート殿下の肉体。


「引きこもり」と蔑まれていたこの体は、私が想像していた以上に脆弱だった。


魔力にステータスを極振りしすぎて、物理防御力と体力が駆け出し魔法使いのようだ。


「目が覚めたか、リリア」


頭上から降ってきた声に、私はビクリと肩を跳ねさせた。


聞き慣れた、自分の声だ。


恐る恐る顔を上げる。


そこには、信じがたい光景があった。


寝室に置かれた巨大な姿見の前。


そこに、私の体をした人物――中身がギルバート殿下――が立っていた。


だが、その姿は私の知る「真面目で地味な侍女」では断じてない。


殿下は、私のメイド服のスカートを太ももの付け根まで大胆に捲り上げ、左足を椅子の上に堂々と乗せていたのだ。


ガーターベルトが露わになり、私の白い太ももの肉がムチリと食い込んでいる。


あろうことか、殿下はその太ももを、まるで市場でオーク肉の品質を確かめる商人のようにペチペチと叩き、揉みしだいていた!


ひいいぃぃっ! やめて! 


お嫁入り前の私の清らかな体に、なんて破廉恥なポーズをとらせるんですか!


「は、はしたないです! 私の足でそんなことしないでください!」


掠れた王子の声で叫ぶ。


だが、殿下は悪びれる様子もなく、私の顔でニヤリと笑った。


「何を言う。この筋肉の密度、脂肪のつき方、素晴らしいバランスだ。騎士の家系というのは伊達ではないな。……それに比べて」


殿下は、ベッドにへたり込んでいる自身の体(中身は私)を冷ややかな目で見下ろした。


「僕の体はどうだ? 重いだろう。血流が悪く、常に手足が氷のゴーレムのように凍りついている。強大な魔力回路の負荷に耐えられない、欠陥品の器だ」


欠陥品ってご自分で言っちゃいましたよこの人……。


「……確かに、猛吹雪の雪山に放り出されたくらい寒いです。それに、胸が軽すぎて重心のバランスが取れません」


「ふん。君のその前についているスライム二匹分のような無駄な質量がない分、動きやすいはずだがな」


スライム二匹分って言いましたか今!?


乙女の胸をスライム換算するなんて、デリカシーがマイナスにカンストしてます!


殿下は椅子から足を下ろすと、まるで高レベルの暗殺者のような足取りで私に近づいてきた。


その動きには一切の無駄がなく、私がお父様から血の滲むような思いで叩き込まれた身体能力を、彼がすでに完璧に使いこなしていることに戦慄する。


「さて、リリア。状況を整理しよう」


殿下は私の目の前にしゃがみ込み、私の顎を指先でクイッと掬い上げた。


自分の顔に見下ろされるという、脳がバグりそうな奇妙な感覚。


だが、その瞳の奥にある「捕食者」の光は、間違いなくあの恐ろしい王子のものだった。


「僕たちの魂は入れ替わった。原因は術式の暴走。元に戻る方法は……今のところ『不明』だ」


「ふ、不明!? そんな、困ります! 私、お仕事があるんです! 実家に仕送りもしなきゃいけないのに……!」


私が王子の顔で涙目になると、殿下は呆れたようにため息をついた。


「安心しろ。金ならやる。僕の資産を自由に使えばいい」


「そういう問題じゃ……! 汗水垂らして働く労働の尊さが……!」


「問題はそこじゃない。……僕の体が『空席』になることだ」


殿下の表情が、王族特有の冷徹なものに変わった。


「王位継承戦が激化している今、僕が完全に姿を消せば、ハイエナのような兄上たちは『第三王子は死んだ』と判断し、この部屋を取り潰しにかかるだろう。そうなれば、僕の研究はおしまいだ。それだけは避けねばならない」


殿下は私の手を取り、強く握りしめた。


冷たい手と、温かい手。


本来なら逆のはずの、皮肉な対比だ。


「だから、リリア。君は今日から『第三王子ギルバート』として生きろ。代わりに僕が、『侍女リリア』として君の体を有効活用してやる」


「む、無理です! 私、ただの脳筋侍女ですよ!? 王子様のフリなんて、開始三分でボロが出ます!」


「フリをする必要はない。ただ『そこにいればいい』。あとは僕が裏から操る」


殿下は、私の抵抗など最初からゴブリンの体当たり程度にしか思っていない様子で、さらに距離を詰めてきた。


そして、ふと眉をひそめた。


「……ん? おい、リリア。なんだその反応は」


「は、はい?」


「僕の体の股間だ。……妙に熱いぞ」


……えっ?


言われて、私はようやく下腹部の異常な違和感に気がついた。


何か、硬くて熱いものが、ズボンの生地を内側から猛烈な勢いで押し上げている。


まるで、長き封印から目覚めようとする荒ぶるファイア・ドラゴンのように、ビクンビクンと脈打っているではないか!


女性である私には、生まれて初めての、そして未知すぎる恐ろしい感覚だった。


な、ななな、なんですかこれぇぇぇ!?


私の股間に、未知の巨大キノコ系モンスターが寄生してます!?


「な、なんですかこれ……病気!? 腫れてます、すごく痛いです! 魔物に寄生されたんでしょうか!?」


「……馬鹿者。それはただの生理現象だ。寝起きだからな」


「寝起き? 寝起きがどうしたんですか!? 朝からこんなエクスカリバーみたいに屹立するなんて聞いてません!」


パニックになり涙目で股間を押さえる私を見て、殿下は「やれやれ、これだから無知は」と肩をすくめた。


そして、残酷な事実を告げる。


「男の体は、寝起きになると勝手に魔力……いや、血液が集中して充血する場合があるんだ。放っておけば治まるが……精神的に興奮したり、刺激を与えると暴発する」


「ぼ、暴発!?」


私の顔(王子の顔)が、熟れたトマトのように真っ赤に染まった。


知識としては、騎士のお父様から少しだけ聞いていた。


だが、まさか自分が「それ」を、しかも王子の特大サイズのエクスカリバーで体験することになるとは!


「ど、どうすればいいんですか……これ……邪魔です……切り落とすわけにもいきませんし……」


「処理の仕方も知らないのか? ……仕方ない。貸してみろ」


殿下は、ベッドの横に置いてあった布切れを手に取った。


そして、反対の手を王子の荒ぶる火竜へと伸ばしたのだ。


ウソでしょ!? 触る気!?


自分の顔をした相手に、あんな恐ろしいモノを握られるんですか!?


「ひゃっ!? だ、だめです! 私の手でそんな恐ろしいモノを触らないで!」


「僕の体だろうが。剣の手入れと同じ、ただのメンテナンスだ」


私は必死に逃げようとしたが、病弱な王子の体では、物理特化ボディを持つ殿下に勝てるはずもなかった。


あっさりと床に押し倒され、両手首を片手で軽々と押さえ込まれる。


自分の姿をした少女に組み敷かれる、美少年の姿をした自分。


状況が倒錯しすぎていて、私の脳味噌はショート寸前だ。


「じっとしていろ。……ふむ、やはりこの体、感度が鈍いな」


殿下は淡々と、まるで複雑な魔導具のダイヤルを調整するように、王子の股間に手を這わせた。


ズボンの紐が解かれ、王子の聖剣が朝の冷たい空気に晒される。


「こ、これが男の人の……! ん、あ……ッ!?」


私の口から、意志とは無関係に、甘く蕩けるような声が漏れた。


背筋に雷が走る。


脳髄が痺れ、視界がチカチカと明滅するような強烈な快感が突き抜ける。


ひ、ひぃぃぃ! なにこれ、なにこれ!? 頭が真っ白に……っ!


「や、やめ……変な感じが……! 」


「ほう。僕の意識がない状態だと、こうも素直に反応が早いのか。これは魔力伝導率の観点から見ても興味深いデータだ」


殿下は私の懇願など完全に無視して、さらに指の動き――まるで神業のような高速詠唱を思わせる手つき――を早めた。


「だめ、だめです殿下! 私、死んじゃう! 天界に昇天しちゃいます! あ、あっ、あーーーッ!!」


ビクンッ、と王子の体が大きく跳ねた。


視界が完全に白く染まり、全身の力がスライムのように抜け落ちていく。


私は荒い息を吐きながら、虚ろな目で豪奢な天井を見上げた。


お嫁に行けない……。


私、男の人になって、自分に襲われて……もう何がなんだか…………。

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