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『詫びの品』として敵国に嫁がされて居場所がない! そう思っていた時期が私にもありました、一夜だけ  作者: 緋色の雨


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――約束の先に

 おかげさまで総合日間 (すべて)の4位に入りました。

 ありがとうございます!

 

 憧れのお兄さんの正体はアルベルト陛下だった。だから、彼に散歩に誘われること自体は嫌じゃない。

 問題は、なぜいまこのタイミングで、過去に一度だってなかった、散歩の誘いをされたのか? ということよ。


 いや、違うわね。

 用件がなにか、おおよその予想は付いている。

 だから、それをたしかめるのが怖い。恋人のように彼の横に並び、まったく別の理由で心臓を高鳴らせる。


「ノエル。知っての通り、白雪の聖女の到来を知らせる痕跡が各地で見つかった」

「ええ、そのようですね」

「実はこの中庭にも白鈴桜が植えられている。ほら、あそこだ。まだ咲いていないようだが……」


 アルベルト陛下が視線を向ける。

 その先で白鈴桜蕾がぽつぽつと開花する。


 なんてタイミングで咲くのよ!?

 少しは空気を読みなさい! こんなの、私が白雪の聖女だと言っているようなものじゃない!


「そなたはどうするつもりだ?」

「ど、どうとは?」

「黒雪を白雪と誤認させただろう? 白雪の聖女が現れれば、ニセモノだと知られることになるぞ?」


 あ、あぁ、そっちね。

 びっくりした。ついにバレたかと思った。


「それで、どうするのだ?」

「どうもしません。黒雪の聖女として認められるように努力します」

「そうか……そなたはあの日からずっと、居場所を作ろうと頑張っているのだな」


 ひゅっと息が零れた。


「あの日って、まさか……」


 私とアルベルト陛下は、互いに身分を隠して話したことがある。

 あの日の少女が私だと気付いていたの?


「最初から知っていた。侍女が迎えに来る婚外子などそう多くはないからな」


 あぁ……そっか。

 私の相談内容。そこに年齢や容姿を併せれば、正体なんてすぐに予想が付いただろう。


「そなたこそ、気付いていたのに黙っていたのか?」

「それは、だって……」


 当時の私は、立派な聖女になって、お兄さんのことを護ってあげる! なんて啖呵を切った。なのに兄の謝罪の品として嫁がされ、しかも黒雪の聖女と忌み嫌われている。


「~~~っ」

「どうした、急に両手で顔を隠して身悶えたりして」

「それは、身悶えたくもなりますよ。こんな、情けない姿を見られて……っ」

「情けない?」


 本気で分からないと言いたげに、アルベルト陛下は首を傾げた。


「情けないでしょ? 私は立派な聖女になって、お兄さんのことを護ってあげるって、自信満々に言い放ったんですよ? なのに、いまの私は詫びの品で、聖女としてだって……」


 あ、恥ずかしくて顔から火が出そう。


「たしかに、苦境には立っているな。だが、そなたがあの日と変わらず努力していることは知っているぞ」

「え?」

「もう少し早く伝えられればよかったんだがな」


 意味が分からない。

 いま私、褒められてるの?


「陛下は、王太子の妹である私を嫌っていたのではありませんか?」

「王太子の妹という人物を快く思っていないのは事実だ。だが、そなたがあの頃と変わっていないことは、会ってすぐに分かった。王太子の妹だからというだけで、そなたを嫌うことはない」

「だけど……」


 だったらどうして?

 その答えを知りたくてアルベルト陛下の横顔を見上げる。

 朝日を浴びる彼は、その整った顔に優しい笑みを浮かべ――私に視線を向けた。


「そなたの悪評が大きすぎた。無理に庇えば、家臣から反発を生むのは明らかだ」


 だから、あえて私に冷たく当たったの?

 それじゃあまるで、私を守ろうとしていたみたいじゃない。

 でも、そんなこと、あり得るのかしら?


「あの日、そなたが居場所を見つけられなければ、俺が手を貸してやると言っただろう?」


 聞いたような気はする。

 でも、あのときの私は、居場所を作るという目標に浮かれていたからよく覚えてない。

 それに、仮に事実だとしても、だ。


「それとこれと、どう関係があるんですか?」

「賠償を要求するついでに、身の置き場のないそなたを助けようと思った。だが、あの王太子の暴走で予定が狂ったんだ」


 あぁ……なるほどね。私を保護しようとしたら、兄から花嫁にと言われたのね。

 それはアルベルト陛下も焦るだろう。


「下手に断れば、他の誰か――そなたを嫌っている六芒領主の誰かに嫁ぐ可能性もあったからな」


 ようやく、アルベルト陛下が兄の提案を受け入れた理由が分かった。私のためだ。

 フリーダを侍女長に選んだのも、公正な彼女ならちゃんと私を見て判断してくれるから。


 護ってあげるって啖呵を切ったのに、実際には私が護られているだけだった。


「でも、どうしてそこまで?」


 私にとっては、道を示してくれた憧れのお兄さん。

 でも彼にとっては、広場で慰めただけの子供のはずだ。


「最初はわずかな同情だ。だが……」


 さらりと、私の頬の辺りにこぼれ落ちた髪が彼の指先に払われた。

 次の瞬間、彼の唇が私の耳元に寄せられた。


「いまはこの選択に満足している」


 ――頬にキスされるかもと思った。

 彼の深く青い瞳が、私を静かに見つめていた。


「改めて問おう。ノエル、そなたは祖国に戻りたいか?」


 アシュタルに戻りたいか否か。

 その答えはとっくに決まっている。


「あの地には大切な人たちがいます。だけど……」


 憧れのお兄さんがいるのは、この国だ。

 なにより――


「戻って兄や父に利用されるのはごめんです。アルベルト陛下の呪いを解くために、あの国の書庫を確認したいとは思っていますが、戻りたいとは思いません」

「そうか……」


 アルベルト陛下は静かに息を吐いた。


「陛下?」

「……アシュタル国ではいま、そなたがいなくなったことで、さまざまな問題が表面化しているそうだ」

「そうなのですか?」

「ああ。浄化が追いつかなくなったそうだ。それで国への不満が溜まっている。それに、王太子も気性がさらに荒くなったと、不満が噴出しているようだ」

「気性の荒さって――っ」


 欲求不満だから、という言葉が脳裏に浮かんで、思わず口元を押さえた。

 いけないいけない。さすがに陛下の前でそんな話は出来ないわ。


「騎士や聖女たちは、がんばって国を支えると言っていました。でも、いつかは破綻する日が来るのでしょうね。だからそのときは……」


 王や王太子を失脚させて、あの国がよりよくなるように手を貸そう。大切な人たちのために。

 そのための切り札はすでに手の内にある。


「なにやら悪い顔をしているぞ?」

「私を詫びの品に仕立てたお兄様たちに仕返しをしようかと思いまして」

「そうか、それは痛快そうだ」


 アルベルト陛下は喉の奥で笑った。

 彼も、兄には煮え湯を飲まされている。であるならば、一緒に仕返しをするのも楽しそうだ。


「ノエル。あらためて歓迎する。まだ認めていない者も少なくはないが、そなたなら、自らの力で彼らの信頼を勝ち取れると信じている」

「ありがとうございます。必ず、やり遂げて見せます」


 白雪の聖女ではなく、黒雪の聖女として。

 晴れやかに微笑むと、不意に一陣の風が吹いた。

 私の新たな生活を歓迎するかのように舞う、白鈴桜の花片。髪に絡まったそれを指で摘まみ、アルベルト陛下の横顔を見上げた。


「部屋に戻ったら、アシュタル国で世話になった侍女に手紙を出してもよろしいですか?」

「かまわないが……急にどうした?」

「それは――」


 幸せになったら手紙を送ると約束したから。

 とは言わなくて。


「――貴方のせいですよ」


 アルベルト陛下にコツンと肩をぶつけた。

 

 

 

 お読みいただきありがとうございます。まとめ書き分の投稿が終わったので、ひとまずここまでとなります。


 面白かった、続きが気になるなど思っていただけましたら、ブックマークや評価を残していただけると嬉しいです! よろしくお願いします!


*今後の予定はXや活動報告、後書きなどでお知らせさせていただきます。


 2026/3/31追記

 おかげさまで書籍化が決まりました。応援ありがとうございます! ひとまずご報告のみ。

 詳細は後日あらためて連絡します。

 

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