表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/16

#11 追悼

「全艦に伝達、今回の戦いで死んでいった味方、および敵の将兵らに対し、起立、敬礼!」


 敵が去ったその宙域で、僕は敬礼する。手の空いている将兵らは、一斉に戦いのあった宙域に向けて弔いの意を表した。

 なんてことだ。思えば敵が前にばかり進むわけでないと、そう考えるべきだった。光魔導で敵を欺き、それで満足していた僕が馬鹿だった。


「何を落ち込んでいるのですか?」


 で、その後、まさに魔導で力を使い切ったエリザベスが食堂の片隅で、山と積まれたピザとハンバーグを食べつつ、僕にそう尋ねてきた。


「貴重な兵力を失ってしまった。なんということだ。無傷での勝利こそが、我が戦隊の誇りだったというのに」


 僕がそう告げると、ピザを一枚、ぺろりと平らげたエリザベスがこう僕に告げた。


「百戦して百勝とは参りません。ましてや、一兵も失わずに勝てる戦いなどありませんわ。(わたくし)とて、光の魔導を使ってもなお、敵の攻勢を完全に防げたわけではありませんし、犠牲も多く出ました」


 僕を慰めようとしているのか、自身の戦いの経験を語るエリザベスに、僕はこう返答する。


「いや、僕の油断が招いた失態だ。あの時、もう少し考えを巡らせていれば……」

「エーベルハルト様!」


 ぼやく僕に、両手にピザを抱えたエリザベスが突然、恫喝してきた。


「な、なんだ」

「戦いによって失われた命は、天国(バルハラ)へと旅立ったにすぎません! この世には不滅の人や国家は存在しないのですから、いずれ終わる命、それが早いか遅いかに過ぎません! それを嘆いたところで、失われた命がこの世に帰ってくるわけではないのですよ!」

「は、はい!」


 珍しくお怒りモードのエリザベスだ。僕は思わず、変な声で返事をしてしまった。


「嘆いている暇があるのなら、仇を打つことをお考え下さいませ。敵の突撃竜(ガーゴイル)の指揮官も、百以上の味方を失ったすぐ直後に反撃に出たではありませんか。あの精神こそ、見習うべきです」


 エリザベスに言われて、ハッとした。まったくその通りだ。敵はまさに、百二十もの大損害を受けた直後、すぐに立ち直って我らを攻撃してきた。落ち込んでいる場合などではない。僕はエリザベスの一言で、そう悟った。


「エリザベス、すまなかった。危うく指揮官としての矜持を失ってしまうところだったな」

「分かればいいんです。それにしても、戦艦ロートリンゲンの街で早く、分厚いステーキ肉が食べたいですわね」


 この魔導師の令嬢は、これだけ大量のジャンクフードを食らっておいて、まだ食べたいと言い出したぞ。どういう胃袋をしているんだ。

 そんなブラックホールのような胃袋を持つ婚約者と共に、その戦艦の街に降り立ったのは、それから三日後のことだった。


「はぁ……」


 ため息をつく僕に、エリザベスが言う。


「そのご様子、どうせまた、あの大将様に嫌味を言われたのでございましょう」

「察しの通りだ。まったく、貴重な見方を失うとは何事かと、そう言われた」

「ですが、決定的な勝利には違いありません。敵を百隻以上も倒したのでございますよ? さしものあの赤い突撃竜(ガーゴイル)も、当面は動けないのではありませんか?」

「それはそうだろうな。さすがに被害が大きすぎた。体制を立て直すのに時間がかかることは間違いない」

「何よりも、あの敵は高い練度を必要とする戦術を頼りに戦っていました。ということは、その敵に与えた被害は、数以上のものがあると思いませんか?」


 一見すると世間知らずなご令嬢のようで、なかなか軍事面でも鋭いところを突いてくるな。それだけ、これまでの戦の経験がものを言っているということか。


「確かに、失った艦艇の補充は可能だろうが、練度は確実に落ちることだろうな」

「その通りです。それが分からぬ上官の文句など、適当に聞き流しておけばよろしいのです」


 と言いつつ、この(いくさ)経験豊富なご令嬢は、普通の三倍はあろうかと思われる分厚いステーキ肉にかぶりつく。にしても、今日は今までに増して食欲旺盛だな。

 エリザベスに言われる間でもない。軍の指揮官ともなれば、麾下の将兵が亡くなるのは致し方ない。それこそ、ケッセルリンク大将なんて一体どれだけの兵士たちの屍の上に立っているのか、それこそ途方もない数である。

 とは言ったものの、数の多い少ないではない。肉親、家族にとってみれば唯一無二の人を、千八百人も亡くしたわけだ。血縁者だけではない、友人知人も合わせれば、膨大な数の人々を悲しみに陥れてしまった。

 もっとも、それを言う僕も、敵とはいえこれまでに数百隻、万単位の敵兵を死に追いやった。それだって十分、罪なことだ。無論僕はそのことで、敵に恨まれていることだろう。


「ファルケンハイン准将閣下でありますか!?」


 などと考えを巡らせていると、僕は突然、見知らぬ士官らに声をかけられた。全部で十人ほど。彼らは敬礼し、僕はその場で起立、敬礼する。


「そうだ」


 そして僕は彼らに答える。すると彼らの一人は僕に向かって、こんなことを言い出した。


「小官は、今回撃沈した十八隻の乗員に、親友がおりました」


 まさに今、残された者のことを思いめぐらせていたところだっただけに、この言葉は僕の胸に突き刺さる。


「いや、すまない。僕が油断せず、回避運動をもっと早く命じていたなら……」


 そう返そうとした時、その士官は続けてこう叫ぶ。


「ですから閣下、次も、いや次こそはさらに多くの敵艦を葬ってください! 我ら一同、戦隊長閣下を信じ、それに従います!」


 意外な言葉だった。てっきり、恨み言を言われるのかと思った。いや、恨み節には違いないが、それは明らかに僕ではなく、敵に向けられたものだ。

 その一言に対し、僕はこう答える。


「分かった、諸君らの奮闘に期待する」

「はっ!」


 十人ほどの兵士らは、僕に再び敬礼する。僕が返礼で応えると、そのまま深くお辞儀をしてその場を去っていった。


「勇敢で良い部下を、持ったものですね」


 相変わらずステーキ肉を頬張っているエリザベスが、そう呟いた。


「勇敢、か。確かに、僕に面と向かってあれだけのことを言ってのける将兵は、相当勇気のあるやつだろうな」


 僕はそう返すと、再び珈琲に口をつける。僕自身の油断が招いた十八隻の失われた駆逐艦の恨みは、あの赤い突撃竜(ガーゴイル)に向けられた。

 が、同時に僕は思う。

 この宇宙での戦争と、両勢力の拡大が続いてかれこれ五百年近い。

 その間に戦いが恨みを生み、恨みは戦いへと連鎖していく。当初は地球(アース)〇〇一の殲滅が目的で設立された連盟と、それに対抗すべく結成された連合は、その戦いの目的自体を忘れ、恨みと弔い戦の連鎖の渦をただひたすら肥大化しているだけではないのか?

 もはや終わりのない戦いに巻き込まれつつあることを、僕は肌で感じた。

 が、その渦から抜け出すことは、たった五百隻の戦隊長ごときができるはずもない。

 それを成し遂げることが可能な指揮官が、この先現われるのだろうか? もしもそんな人物が現れたならば、それはきっと「英雄」として称えられるであろう。

 もっとも、その英雄のために流される血は、これまでの戦いの比ではないだろうが。


 さて、ルネエーゼル港に戻り、僕は我が戦隊に所属する艦艇の艦長と副長らを集める。十八隻とはいえ、千八百人もの犠牲者が出た。その追悼式を行うためだ。

 金色の勲章の上から黒いリボンを胸に掲げ、僕は演台に立つ。そして、集まった数百人の艦の指揮官らを前に、こう告げる。


「この度の戦いでは、十八隻もの艦艇と、貴重な千八百人もの人命を失った。彼らの魂が安穏の地へ旅立ったことを祈りつつ、黙とうをささげる」

「黙とう!」


 そういって、一分間の黙とうが行われた。僕のまぶたの裏側では、あの時に放たれた敵のビーム群が思い浮かぶ。

 すぐ後ろには、エリザベスが同様に黙とうを行っている。この星でも、死者に対して黙とうをささげる習慣が同じくあるとのことだった。星が違えど、戦死した者たちへの哀悼の意を表す方法は変わらないようだ。


「黙とう、直れ!」


 一分間が過ぎ、再び全員が目を開く。僕はその見開いた目の前で、こう宣言する。


「今回の戦いでは、敵はおよそ百二十隻、沈んだとされる。数の上では勝利だが、我々は貴重な人材を多く失った。次なる戦いでは、敵を完膚なきまでに叩きのめす。その覚悟で、戦いに臨む所存だ」


 僕自身のこの言葉が、味方の戦意を上げ、そしてまた恨みの連鎖を増幅させていることを自覚している。だが、この場で僕は、そう語らずにはいられない。

 無論、あの赤い突撃竜(ガーゴイル)殲滅の命令を受けているからということもあるが、一方で僕自身の中にも、あの不意打ちに対する悔やみと怒りがある。

 今度こそ、負けてたまるか、と。

 終わりの見えない戦い、今度会った時には、どういう戦いをすることになるのだろうか。光の魔導を駆使して戦うか、それともさらなる意表を突いた作戦を立てるか。


 しかし、僕が次に「赤い突撃竜(ガーゴイル)」と出会ったのは、意外な場所だ。しかも、予想外の命令を受けたことがきっかけだった。

 その命令とは、「捕虜交換を遂行せよ」というものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ