怪しい者
「父さん、見ててね!」
しかし、突然ミジェーおじさんが何かを思い出したかのように焦り始めた。
「すまんなアベル君。ちょっとやらないといけないことをつい忘れてしまって」
「どうしたんだミジェー? 何かまずいことがあったのか?」
父さんが気にかけた。
「サメク、あれだよ。集会みたいなもんだ。アベル君、申し訳ないがちょっとひとりで練習しときなさい」
すると父さんも思い出したのか、ミジェーおじさんと共に時計塔がある街に行ってしまった。
「あーあ、ひとりで練習かー。退屈だなー。というかどうしたんだろう父さんたちは? 集会ってことは、偉い人が来たからとかか?」
俺は気になって仕方がない。怪しすぎるんだ。いままでそんなこと無かったのに今日は何かおかしいんだ。
(そうだ、おじさんの後を追ってみよう!)
俺は二人の後を追った。
とりあえず時計塔がある街に着いた。辺りは奇妙なほどしーんとしていた。
街であちらこちら二人を探した。そして、パン屋と本屋の間にある裏路地へ、二人が入っていくところを見つけた。俺も入っていこうとしたがその時。
「何してんだアンタ」
声をかけられるなんて予想していなかったので、思わず面食らってしまった。
後ろを振り向くと、黒ヤギの見た目をした獣人だった。
「おっと驚かしてスマンね。獣人はスカルドでは珍しい方だから仕方ないね」
(正直後ろから声をかけてきたことの方が驚いたけど、それはいいとして何でスーツケース持っているんだろう)
俺はヤツが持っているスーツケースに目を向けた。
「どうも、オレグだ。ちょっとアンタに聞きたいことがあってな」
「何ー?」
「ここで話されてる言語は何だと思う?」
俺は考える時間なしに即答した。
「そりゃサノロイド語でしょ?アスルと同じ」
「ん、アスル?」
「あっ……」
つい言葉が滑ってしまった。
「サノロイド語じゃない、『日語』だ。それにしてもすごいな坊や。こんな年でアスルを知ってるなんてな」
「あっ、ははは」
(そりゃ前世はアスルで日々を過ごしていたからな。アスルのことはよく知っている)
「ま、アンタがアスルで過ごしていたことなんて知ってる」
「いや…俺は元からサノロイドに住んでい……」
「転生者だもんなアンタ」
「えっ……?」
一瞬の出来事だったが、俺は大量に冷や汗をかき、喉が詰まった。
「能力を使えば前世の記憶を持っているか持っていないか分かる。一応聞くが、何で死んだ?」
「えっと、窃盗に失敗して殺された」
「誰にだ?」
「ギャングに殺された。相手を間違えたんだ。ジェノ・ギャングにね」
そう言うとオレグはちょっとニヤけながらこう言った。
「いい子だねアンタ。その記憶、大切にしておくんだ。分かったか?」
「あ、えっと……うん。そういえばそのあなたが持ってるバッグはいったい何なの?」
俺はついでにオレグが持っているスーツケースのことについて聞いた。
「ああ、これか。これは俺と俺に関係する者にとって必要が無くなったモノが入ってるんだ。」
オレグは裏路地の方を見て話を続けた。
「人と人の間には信頼度という見えない指標がある。その指標が崩れると、紙屑程度の価値へと成り下がる。使い物にならなくなるってな。今俺がいるのもその信頼度を保ってるからだぜ。俺に常に備わっているこの能力のおかげでな。ありがたや」
再び俺の方を見た。
「ところで、人に自分が都合の良いようにされるのって良いよな。アンタもそうだろう。だって自分が何しようが否定する者は誰も居ないからなそりゃ。自分の思い通りで生きていける。悪者を退治した時なんてなおさらだ」
「あなたの場合はどうだったの?」
すると裏路地の奥からミジェーおじさんと父さんの声が聞こえてきた。
「まずいっ!帰ってくる!」
「あー?」
俺は全力疾走で草原に戻り、何事もなかったかのように待った。
しばらくして、二人が戻ってきた。
「おお、アベル君。独りでも練習はできたかい?」
「も、もちろんっ!」
「そうか、それは良かった。いっぱい頑張ったな。それじゃあ今日はここまでにしようか。帰ってアンタのママが作った夕飯食って休みなさい。」
「うん、分かった!」
そうして俺は家に戻り、夕飯を食べた。
俺は父さんにあることについて言った。
「ねえ父さん」
「なんだ? アベル」
「父さんって、獣人見たことある?」
今日俺は獣人のオレグに会い、父さんも会ったことあるか尋ねた。
「ん? いや、俺は会ったこと無いなー。というか俺は生まれてずっとスカルドに住んでいるけど、一度も獣人を目にしたことは無い。もしかしてアベルは会ったのか?その獣人に?」
「うん、会ったよ!」
「そうなのか! そりゃ良かったじゃないかっ。運良いなアベルは。人生に一度しか無いかもしれないから、その記憶、大切にしておくんだ。分かったか?」
「うんっ!」
(ん?その言葉ヤツが発した言葉と似てるなー? ま、いっか)
あの時から入学する時まで、俺はオレグと会うことはなかった。
♢
5年後、遂にこの時が来た。
「アベル君ーっ! 元気でなー!」
「ありがとー!」
ミジェーおじさんが俺に向かって手を振っていた。今日はスカルド魔法学校の入学式の日だ。
俺が行く学校は卒業するまで学校で生活する。授業以外は学校の近くにある寮で過ごすのでもうミジェーおじさんに会えなくなり、両親とは学校行事で会うくらいになってしまう。
「いってきまーすっ!」
俺はミジェーおじさんと離れ離れになってしまうのがすごく嫌でちょっと泣きかけたが、それでも前を向いて学校に向かった。




