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真相

 「まず俺は、カノフにこの国で使われている言語を問うた」

 「ああ、日語じゃないのか? サノロイド人にとっては常識じゃないか」

 「そうだ。まあ、アンタは分かるよな。しかし、カノフも知っていた」

 「ん、何がおかしい? そんなこと、カノフでも知ってると思うが?」


 オレグは僕に対する不信感は未だに消えることがなかった。オレグは引き続き口を開いた。


 「……俺はこんな奴が知ってると思わなかったがな。で、次に俺は誰から知ったかを問うた。兄からのようだ。やんわりと、カノフに対して不審を抱いたんだ。この子にはヤツのような気配がする」

 「ヤツ?」

 「カノフのその髪色、人格が俺が脳裏に思い浮かべているヤツらしいところがある」

 「カノフのような人はどこにでもいるだろう?」


 ベットおじさんはオレグの主張を理解できていない。


 「体中に痕がある者を見たことあるか? 腕には掻き傷、腹や胸、背中には痣がある――そんなアイツだ。」


 オレグはベットおじさんに聞いた。するとベットおじさんは理解したのか、まるで心当たりがあるかのような顔になった。


 「……まさかアイツこそが?」

 「そう。そのアイツこそがカノフの兄かもしれないんだ」


 ベットおじさんは唖然とした。まるでタブーに触れてしまったかのような顔だった。きっと僕の兄を恐れているのだろう。


 「カノフ……」


 ベットおじさんはじっくり僕の目を見た。


 「何か知ってるんですか?」


 僕は絶句したベットおじさんを気にかけるつもりで聞いた。するとベットおじさんから想像を絶する答えが返ってきた。


 「大丈夫だったか?」

 「え?」


 僕は訳が分からなかった。兄は、まさか問題児扱いされているということなのか。

 ……お兄ちゃんとの記憶は僅かだけど、彼はすごく優しかったということだけは覚えている。そんな酷いことするなんてありえない。何かの間違いだ! 裏なんてある訳ないよ!


 「……なあ、アイツは今、何をしてるんだ?」


 ベットおじさんはオレグに聞いた。


 「まあ立派な子になってるんじゃない? ケーリア兵の仲間入りになったんだろう」


 ケーリアって何……?

 僕は『ケーリア』という言葉に突っかかった。が、しばらくしてようやく思い出した。


 未だに紛争が続いている国じゃなかったっけ? まさかお兄ちゃんが僕を養子に出したのってまさか……自分が徴兵されるの、分かってたから? 僕のために、絶対そうだよね……

 僕は兄と離れ離れになってしまったことに対して寂しさが埋まらない。ただし、これも仕方がなかったことなんだとも思ってしまう。


 その後しばらくの間、気まずい沈黙がその場に降りた。


 「……もう、行って良いよな?」


 オレグは沈黙の中、か弱い声で口を開いた。しかし僕とベットおじさんは黙ったままだった。


 (チッ。コイツら何がしたいんだ? 俺はサノロイドあちこちでの諜報で急いでる。帰っていいよな? 帰るぞ?)


 オレグは呆れていた。その時、


 「グルルルル……」


 針葉樹林の奥から大量の猛獣の唸り声が聞こえてくる。僕らは見つかってしまったのだ。その声は次第に大きくなっていく。赤く光った目が見えた気がした。僕は今度こそ助からないと絶望した。


 「まずいっ、カノフ! 逃げるぞ! 獣らはこの黒ヤギが何とかするだろう!」

 「ひっ、ひいいい!」


 僕とベットおじさんはオレグを置いて行き、全速力で並木道を走った。


 「おいっ! ちょっと待てよおじさん!?」


 ♢


 僕らはようやく並木道を出たところで走るのをやめた。気づけばすっかり空は真っ暗だった。


 「……もうこれで、大丈夫だよな?」


 ベットおじさんは辺りを見渡した。


 「やっとセパンを抜け出したぞっ! ウォスクに来たぞっ!」

 「ウォスクとは何ですか?」

 「ウォスクは百三十二万平方キロの面積を誇る、自国の中でも大きい方の地域だ。この地域は鉱石が発掘しやすいことから他国でも重宝されている。ちなみにウォスクを抜けるとやっとスカルドに着くから、あともう一息だっ! 頑張れ!」


 ベットおじさんに応援されて、僕は何だか上機嫌になった。

 やっと、スカルドまでもう少しか。よし、引き続き進んでいこうとしよう。


 「あっ、今日はここまでにしよう。無理すると体壊すからな」

 「……そうですね」


 まあ、それはそうだ。僕らは近くにポツンと建った宿を見つけ、早速中に入った。結構古そうな外見だが、中に入ると案外綺麗で、客でにぎわっていた。フロント・オフィスには店員が三人いた。


 「えっと、空いている部屋はあるかい?」

 「はい。二〇五号室は開いておりますよ」


 客が多いので満室になっているのではないかと思ってしまったが、奇跡的に空き部屋があったようだ。良かった。そして僕らは二〇五号室に入った。中は見たことがない床があった。


 「これは何ですか?」


 僕は床に指を指して、ベットおじさんに聞いた。


 「ああ、これは『畳』って言うんだ。しかし、畳があるなんて意外だな。サノロイドの建物は基本、木製の床だからね。ささ、靴を脱いで」


 僕は靴を脱ぎ、部屋の入口に揃えた。そして畳に上がり込んだ。木製の床にはない香りと柔らかさがあった。


 「……よし、じゃあ寝る準備をしよう。布団を敷こうか」

 「ベッドはないんですね?」

 「ベッドはないよ。だから畳の上に敷けばそれで良い」


 そうなのか。

 僕らは布団を敷き、中に潜った。布団はふっくらしていて、まるで干してすぐのようだった。


 「そんじゃ、電気を消すぞ?」

 「はい」


 そしてベットおじさんは電気を消した。僕らは明日のためにも目を閉じた。

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