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怪しい者

 歩き続けてしばらくが経った。僕らは広大な森を通る並木道に入った。地面の雪はかたく、足はそこまで沈まない。辺りを見渡すと、雪を被った針葉樹が僕らを見下ろしているようにずらっと並んでいた。


 「あぁカノフ。ちょっと止まってくれ」


 僕はベットおじさんに止められた。彼は顔をしかめていて、どうも落ち着けない様子だった。

 

 「どうしたんですか?」

 「ちょっと……あれだ。何と言うかそのー」

 「ん?」


 僕は不審に思った。


 「しょんべんしてくるっ!」


 そうしてベットおじさんは自分たちの左側の針葉樹林の中に入ってしまった。


 なーんだ。それか……

 僕は一安心した。しかし、同時に独りぼっちになってしまった。


 ……ちょっと待てよ!?

 ベットおじさんがどこかに行った後ほど、僕は思い出した。それは昨日の夜のことだった。ベットおじさんが僕に旅をする際の注意点を伝えていた時、


 「――旅で通る、人通りの少ない並木道は、熊のような猛獣が俺たち人間を探し求めてることがある。だから絶対はぐれるなよ?」


 ちょうど僕が今いる場所がその人通りの少ない並木道だ。

 うぅ。どうしよう。僕も付いて行けば良かっだぁ……

 僕は足がすくんでしまった。もしかしたら既に何者かが、自分を獲物にしているかもしれない。その恐怖でだんだんと視界がにじんでいった。その時だ。


 「よぉっ!」

 「……っ!?」


 声をかけられるなんて予想していなかったので、思わず面食らってしまった。

 後ろを振り向くと、黒ヤギの見た目をした獣人だった。僕は人生で初めて獣人を見たのかもしれない。


 「おっと驚かしてスマンね」

 「何ですか、いきなり……」


 僕は思わず眉間にしわを寄せた。


 「どうも、オレグだ。ちょっとアンタに聞きたいことがあってな。ここで話されてる言語は何だと思う?」


 当然サノロイドの言語だ。ただし『サノロイド語』ではなかった気がする。


 「知ってます。合ってるかは分からないけど」


 僕はとりあえずそう言った。


 「そうか。じゃあ言ってくれ」


 (まあコイツはどうせ『サノロイド語』なんて言うんだろうな?)


 オレグは見通しの付いた顔つきになった。僕は黙ってても仕方がないと思い、とりあえず直感で口を開いた。


 「『(サノ)語』だったと思います……確か?」


 その直後、オレグは少しハッとした。まさかサノロイドのことについて何も知らなさそうな子が答えるなんて想像もつかなかったからだ。


 (なんでコイツがそれを……何者なんだ? まあとりあえず転生者かどうか調べるか)


 オレグはカノフに対して能力を使って調べた。カノフは転生者ではなかったことが分かった。


 (転生者ではないのか……なら誰かに教わったな?)


 僕はオレグが何か困惑しているような顔をしていたのを見て、口を開いた。


 「えっと何でだろう……多分、お兄ちゃんに教えてもらったんだと思います。へへ」

 「そうか。いや、しかし。アンタの兄は一体どんな奴なんだ?」


 オレグは少々含みのある顔で聞いた。


 「お兄ちゃんねぇ……分からないです。何でか、顔も名前も思い出せないんです」

 「……じゃあアンタの兄に関する特徴とかはあるか? 例えば、えっと……性格とかしぐさとか」


 僕は兄に関する特徴を懸命に思い出そうとした。彼は僕と同じ茶髪だったということだけを思い出した。


 「えっと……多分、僕と同じ髪色をしていたと思います」


 その直後、オレグの顔がさらに曇り始めた。


 「あっ、あれはどうだった? その……腕に掻き切ったような傷はあったか? 腹や胸、背中には痣はあったか? なぁ?」


 僕には訳が分からなかった。兄はそんな問題のある人ではないはずだ。


 「えぇ……」

 「いいか? 思い出してくれ。どうだったんだ?」


 その時。


 「おーい。戻ってきたぞ。さあ、再開だ」


 ベットおじさんが戻ってきた。


 「……まずいっ!」


 オレグはそう言った後、指を鳴らした。すると彼の周りが灰色の煙に包まれた。これは間違いなくテレポートだ。


 「おいっ! 待つんだ!」


 ベットおじさんは去ろうとするオレグを止めた。


 「んあぁ何だよ」


 オレグはベットおじさんを呆れた顔で見た。


 「なあそこの君。さっき、カノフに何をしていた?」


 ベットおじさんはオレグに怪訝そうに目を細めて聞いた。


 「俺は人間に何をするか分からない獣人が大っ嫌いなんだ。おい、カノフに要らないことしたよな? 俺には分かる。全てお見通しだ」

 「はぁーっ……なぁおじさん。いい加減さ、被害妄想するのやめてくれないか? 俺がそんなことする訳ないだろ? あの…あれだ。この子とちょっとお話をしていただけだ!」


 僕はオレグの顔を見ると、彼には大量の汗をかいていた。

 あぁもう。やめてくれぇ……

 僕はこの後見たくないような揉め事が起こりそうな感じがして嫌気がさした。


 このままだと……よし、いこうっ!

 僕は心構えをした。


 「お二人とも、一旦落ち着きましょう!」


 僕はベットおじさんとオレグに注意を促した。すると二人の勢いは収まった。上手くいったのだ。僕は一安心した。


 「……本当なんだろうな? 信じて良いんだな? 信じるぞ?」

 「ああ、本当だ。どんな話をしていたかも全て教える。本当に大したことないぞ?」


 オレグは気を取り直してベットおじさんに事実を説明し始めた。

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