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旅の始まり

 朝日が昇り、薄暗かった夜空が明るくなり始めた頃、いよいよスカルドに向けての旅が始まる。


 「忘れ物はキッチリと確認したか?」

 「もちろんですっ!」


 昨日の夜。持ち物の確認は徹底的に行ったから忘れ物等は問題ない。僕はワクワクを抑えきれなかった。


 「そうか、なら良い。では行くぞ!」


 僕らはそうしてスカルドに向けて歩み始めた。ここは人通りが少なく、見通しの良い地域だった。辺り一面が雪道だった。雪はそこまで深くなく、ちょっぴり草が姿を現していた。ベットおじさんは方位磁針を取り出した。


 「うむ。スカルドはここから確か北側だったな……つまり真っすぐ進めば良いんだな?」


 ベットおじさんからは『絶対迷わない』という自信が感じられた。僕らはそのまま真っすぐに歩んだ。


 「確か君は…カノフで間違いなかったな?」

 「はい!僕の名前はカノフです!」

 「カノフか……良い名前じゃないか。君の親、絶対良い人だろ?なのにまさか、家出になってしまうようなことになるなんてな」


 ベットおじさんは勘違いしていた。彼が思っている僕の家族。本当は血の繋がっていない、義理の家族なのだ。僕は戸惑いが隠せず、うつむいてしまった。


 「……えっと。言い忘れてましたがあの方々は、僕の本当の家族じゃないんです」

 

 僕は重い口を開いた。


 「えっ……?」


 ベットおじさんは想定外の真実に面を食らった。


 「僕は養子としてあの方々に引き取られました」

 「そうだったのか!?なら元の親は……?」


 両親は生まれた時にはすでにおらず、兄はいた。僕がはっきりと物事を理解できるようになった頃、兄にその事実を知らされた。


 「親……?僕に親はいませんでした。唯一、兄はいたのですが」


 兄とは別れてたったの一年なのに、何故か彼の顔と名前が思い出せない。信じられないかもしれないが、本当だ。


 「そうか、辛かったな」


 ベットおじさんは僕の気を落ち着かせるため同情の言葉をかけた。短い言葉だったが僕にはすごく響いた。


 

「……そう言えば、腹減っただろ?昨日の夜、あんま食ってなかったしな?」


 僕は確かにあの時はあまり食べなかったが、そんなにお腹は空いていない。とは言え、ここで断るとベットおじさんの気を悪くさせると思った。


 「そうですね」


 とりあえず僕はベットおじさんに同調した。


 「やっぱりそうだよな。じゃあ、あそこに倒木があるからそこに座ろっか」


 僕らは自分たちの左側にある倒木に座って食事を始めた。僕はまだ食料が残っていたのでそれを食べた。


 「ん?本当にそんぐらいで足りるか?絶対持たないだろ?」

 

 ベットおじさんは僕が缶詰一缶のみ取り出したところを気にかけた。


 「あの僕、小食なので」

 「そうか。いやぁそれにしても小食ってうらやましいなー。俺なんか大食いだからさ、食費がドエライことになってしまうんだ」


 そしてベットおじさんは自分の食料をバッグから取り出した。取り出したのは見るにも高級そうなローストチキン。僕はいつの間にか自分の食料よりもベットおじさんの食料に目が行ってしまった。


 いいなぁ……僕もベットおじさんみたいなもの持ってくれば良かったな。

 僕は口からよだれが出ていることに気付くことなく、ベットおじさんの食料をじっくり見続けた。ベットおじさんはそのことに気が付いた。


 「どーした。俺のが欲しいか?やっぱ美味しそうだよなぁこれ」

 「い、いや……別にっ!」


 僕は欲しいが、食べるまでではないと思ったので断った。


 「はは、冗談はよしな。ほい、これは君にあげるさ」


 ベットおじさんは自分の食料を僕に渡した。僕は少しの間、戸惑ったが仕方なく受け入れた。


 「ではお言葉に甘えて」


 僕はベットおじさんの食料を一口いただいた。


 「……美味しい」


 ローストチキンの皮はパリッとしていてオーブンで焼いた肉の香りがした。中は鶏の旨味がはっきり感じられ、焼けた脂で滑らかでしっとりとしていた。

 そして何と言っても、


 「なんだか、ほのかに甘い?」


 どこからともなく、甘みが鼻に抜けた。


 「おぉっ?どうやら気が付いたみたいだね。そうだ、実はハチミツも入れておいたんだ」


 ベットおじさんは自慢げに言った。僕は鶏肉とハチミツのような甘い物は無論合わないと思っていた。しかし、案外良かった。


 「……今まで僕が食べた肉料理には塩かスパイスが基本でした。でも、ハチミツも案外行けるものですね。もっと早くこんな料理に出会っておけば…と思います」

 「……っ良かったぁーっ! あぁ、あのー俺がハチミツ入れたのこれが初めてなんだ。ちょっぴり不安はあったけど、君がそう言ってくれてすごく嬉しいよ」


 ベットおじさんからは緊張がとけた感じがした。


 「ちなみに、それまではどんなもの……」

 「んーたとえば、チョコレートとかかな?」


 ベットおじさんからは自分が予想もしなかった答えが返ってきた。


 「あっ……そうなんですね」


 僕は戸惑ってしまい、何を言うべきか言葉が詰まってしまった。

 チョ……チョコレートっ!? あっいやでも、ハチミツが合うのならチョコレートも合うか?

 そして、僕は完食した。食べる前の空腹感のなさが、まるで嘘かのように食べることができた。


 「よし、完食できたな。じゃあ引き続き歩くぞ」

 「はい」


 僕らは再び、スカルドへ向かって歩き出した。

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