表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/21

第9章 — 小屋作戦(ドラゴン娘を騙す方法:存在しない)

カイは走りすぎて、もう自分がどこにいるのかすら分からなかった。

砂浜?

森?

地獄?

もしかしたら全部同時かもしれない。


そのとき、ヤシの木の影の間に、昼間ライフガードが使っている古びた小屋が見えた。

灯りは消えている。

ドアは半開き。


カイは深呼吸した。


「よし……ここで二分だけ隠れればいい……二分……」

彼は呟いた。

「ここなら……絶対見つからな……いはず……」


彼は素早く中へ入り、静かにドアを閉め、背中を押し当てて息を整えようとした。


小屋は狭く、傾いた棚、壊れたラジオ、床に散らばったライフジャケットがあった。

潮の匂いが濃すぎて、海そのものがここに住んでいるようだった。


カイは机の裏へ転がり込み、完全に動きを止めた。


「よし……作戦変更……ここで静かにして……彼女が通り過ぎたら……反対側に走るんだ……」

誰にも聞かれていない独り言が続く。

今日一日、誰も話を聞いてくれなかったからだ。


静寂。


完璧な静寂。


リュウナが空から落ちてきて以来、初めてカイは希望というものを感じた。


彼は目を閉じた。


深呼吸。


そして──聞こえた。


カチッ。


まるで誰かが……ドアに鍵をかけたような音。


カイはゆっくり目を開けた。


ゆっくり顔を向けた。


そして……見た。


リュウナ。

小屋の天井の上に座っていた。

足を組んで。

小魚をぶらぶらさせながら。

満面の笑みで。


「やぁ、カイ。」


「アアアアアアアアアア!!!」


「しー。」

リュウナは指を口元に当てた。

「静かにね。ここ反響するから。」


カイは絶望的に指を向けた。


「ど、どうやってそこに座ってんだよ!?」


「屋根の穴から入ったの!」

彼女は嬉しそうに答えた。

「私はドラゴン娘だよ? よじ登るなんて簡単よ。できないのはカイだけ。」


「俺は“気候まで操れる300メートル級の海竜”じゃねえんだよ!!!」


リュウナは天井から──ふわりと降りてきた。


そう、

ふわりと。

重力? そんなもの彼女にとっては“人間専用ルール”。


カイは壁まで下がった。


「や、やめろ……警告するぞ……これ以上近づいたら……窓から飛び降りるからな!!」


リュウナは窓を見た。


「そのガラス……ひび入ってるよ。飛び降りたらケガする。」


「そのつもりなんだよ!!」


「やだ。」

彼女は可愛いのに恐ろしく見える口尖らせ顔で言った。

「カイがケガするの嫌。私はただ……あなたに印つけたいだけ。」


カイはライフジャケットを盾のように構えた。


「来るな!! 俺には……もっふもふの防御がある!!」


リュウナは大笑いし始めた。

あまりに笑うので、ライフジャケットのバックルまで震えた。


「カイ……その盾じゃ首守れないよ……?」


カイはごくりと唾を飲んだ。


「よ……予定では……避け……」


「かわいい♡」

リュウナは言った。

「でも無意味♡」


一歩進む。

カイは三歩下がる。

彼女は二歩進む。

カイは壁に追い詰められる。


「ちょっとだけ……ひっかくね……?」

甘すぎて逆に恐怖の声。

「または……小さく噛むだけ。選んで♡」


「選ばねぇよ!!」


カイはもう逃げ場がないことを悟った。


椅子へ足をかける。

登る。

そして──窓へダイブ。


ガラスが砕け散る。

カイは外の砂に転がり落ちた。


「いってぇぇぇ!! 俺の背中ぁぁ!!!」

叫びながらも立ち上がる。


リュウナは割れた窓に顔を出し、あごを枠に乗せて、まるで悪さをした子犬を見るみたいに微笑んだ。


「カイ……」


「なんだよおお!?!?」


「私、ドアから出るね。これ以上壊したくないから。」


彼女は小屋の中へ引っ込んだ。


カイはまた走り出す。

叫びながら。

心の平和を求めていたはずが、いつの間にか謎ジャンルに巻き込まれた主人公のように。


そして追いかけっこは、また始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ