第7章 — 電撃ネットの罠(アニメでしか機能しないやつ)
カイはまだ逃げていたが、彼のアイデアは尽きかけていた──そして正気も。
その砂浜はもう観光地ではなく、
「伝説級の恋する怪物から必死で逃げ続ける一般人」
という映画のセットのようになっていた。
そのとき彼は見つけた。
むき出しの電線がぶら下がった電柱。
砂の上に転がった一本のケーブル。
そして、今にも死にそうに点滅している街灯。
カイの脳が、危険な回路をつなげた。
「で……電撃トラップを作れるかも……」
彼は呟いた。
「アニメでよくあるやつ……
……顔が爆発しませんように」
カイはケーブルを拾い上げ、砂の上に倒れていたバレーボールのネットまで引きずり、
思いつくままに結びつけた。
その仕上がりは、エンジニアを即座に昏睡させるレベルの怪物的工作だった。
彼は木のベンチの後ろに隠れ、息を潜めて待った。
数秒後──リュウナが現れた。
まだ小さな魚を手に持ったまま。
いまだに生きている。
ある意味、終末のマスコット。
「カーーーイ!」
儀式のダンスかのように回りながら呼ぶ。
「もうそろそろ抱きしめて、逃げるのやめさせてあげてもいいー?」
カイは生唾を飲んだ。
「Vem! ── いや、来い!」
偽りの勇気を胸に叫んだ。
「ただし……ネットの真ん中を……思いっきり踏んでくれ!!」
リュウナは輝いた。
本当に輝いた。
嬉しすぎて、青いオーラがボワッと脈打ち始めた。
「ついに……私の“触り”を受け入れる気になったのね!?♡」
「まあ……ある意味……」
カイはボソッと呟く。
「……悲劇的な意味で……」
リュウナは走り出した。
ネットの中心に──
見事に着地。
電流が弾けた。
バチッ──バチバチ──パチィィィィン!
青い火花が舞う。
電柱が明滅する。
カイは顔を腕で覆った。
そして──
リュウナは止まった。
その場で完全に静止した。
周りの砂が震えた。
空気まで止まったかのようだった。
カイの目が大きく開く。
「っ……効いた!? 本当に!?」
リュウナはゆっくり、横目でカイを見た。
「カイ……」
小さな声で言う。
「これ……くすぐったい……」
カイはほぼ卒倒した。
「く、くすぐったいぃ!?!?」
次の瞬間、リュウナは笑い出した。
笑う。
爆笑する。
狂ったように笑う。
まるで魔法の羽根で永遠にくすぐられているかのように。
「HAHAHAHAHAHAHAHA!!
カイ! や、やめてぇぇぇ!!
顔がビリビリするのぉぉ!!」
カイは膝から崩れ落ちた。
「そんな……バカな……」
リュウナはネットから飛び出し、テンション高めに跳ね回った。
「カイィィィ!!
新しい感覚をくれたのね!?
なんてロマンチックなの!!」
「ロマンチックにするつもりじゃなかった!!」
リュウナは宇宙を飲み込みそうな巨大スマイルで近づいてくる。
「じゃあ……今度はあなたが
“新しい感覚”を味わう番ね……♡」
青い光が手に集まり、
ゆっくりと、小さな“青い爪”が伸び始めた。
「……“愛のひっかき傷”を♡」
カイは飛びのいた。
「やだやだやだやだ!!」
走る。
リュウナも走る。
魚は相変わらず揺れている。
まるでこの狂気を応援しているマスコットのように。
そして背後では──
電柱がゆっくりと爆発し、
砂浜の照明の半分が暗闇に落ちた。




