第3章 — 罠、パニック、そして「絶望」という名の小さな魚
カイは考えるより早く車から飛び出した。
リュウナは彼をつかまえようとしたが、歩道でつまずいた──わざとなのか本気なのか、判断不能──そのおかげでカイは貴重な三秒のリードを得た。
海竜に恋い焦がれたドラゴン娘に追われる人間にとっては、三秒は永遠に等しい。
カイは再び砂浜へと走った。しかし今度は“作戦”があった。
バカげた作戦。
だが、作戦は作戦だ。
彼は先ほど子供たちが遊んでいた場所まで走り、バケツ、スコップ、古いロpeをかき集めた。
全部砂に放り投げ、必死に掘り始める。
穴。
浅い。
小さい。
完全に役に立たない。
だが、穴。
「カーーーイ!」
リュウナの声が後ろから近づいてくる。
「私から隠れてるの? ああ、可愛い!」
カイはまるで別世界へ通じるポータルでも開く勢いで砂を掘った。
穴の深さは……五センチ。
「くそ、くそ、くそ!」
彼はバケツを“罠”の上にのせた。
リュウナはカイの後ろで立ち止まり、じっと見つめた。
沈黙。
長い沈黙。
沈黙すぎる沈黙。
カイはゆっくりと振り返る勇気を出した。
彼女はミニ穴を見つめていた。
次に彼を見た。
また穴を見た。
「……これ、罠?」
「見ないでぇぇぇ!」
カイは絶叫し、両腕を広げて隠そうとした。
「サプライズなんだよ!」
リュウナは顎に手を当て、考えるように言った。
「かわいい。」
「可愛くするつもりじゃなかったんだよ!!」
彼女はバケツに近づき、足でちょんと触れ──そのまま前につんのめった。
まるで重力が彼女にキレたみたいに。
ドスン。
カイは目を見開いた。
彼女は五センチの穴に、まるで底なしの奈落に吸い込まれたように“落ちた”。
「ちょっ……落ちたの?」
彼は震える声で聞いた。
リュウナは砂から頭を出し、妙に真剣な顔で言った。
「カイ……」
「な、何……?」
「千年ぶりの……私の敗北よ。」
カイはまばたきした。
リュウナは顎まで砂に埋まりながら、まるで伝説の英雄に負けたかのような表情をしていた。
「お、俺……そんなつもりじゃ……」
カイはどもった。
「ただ、掘っただけで……!」
「それを“私に向けて”よ。」
彼女はドラマチックにため息をつく。
「はぁ……自分のパートナーに欺かれるなんて。ひどい……でも魅力的……」
「やめろおおお!!」
カイは飛び退き、転びそうになりながら叫んだ。
「俺はお前のパートナーじゃない!!」
リュウナは突然、砂を水のように突破して立ち上がった。
力も、理由も、物理法則も無視して。
そして彼の前に立ち、髪の砂を払いながら、所有欲に満ちた光を目に宿して笑った。
「まだよ。でも……あと五秒くらいなら待ってあげる。」
「はああああ!?」
カイは走った。
また。
リュウナは砂浜で何かを拾い上げ、それを持って追いかけてきた。
小さな魚だった。
潮に取り残された、小さな小さな魚。
「カイー!」
彼女はそれをトロフィーのように掲げて叫んだ。
「見て! これ育てましょう! 私たちの初めての子ペット!」
「そういう関係じゃねええええ!!」
「じゃあ、今“印”していい?」
「ダメに決まってんだろ!!」
逃走劇は海岸沿いに続き、カイは逃げ、リュウナは魚を持ち、二人ともスマホで撮影している通行人を完全に無視していた。




