第25章 — 絶望者たちの公園(そして混沌のシーソー)
カイは凍りついた警察署から走り続け、
息も、理性も、残っていた希望の半分も失っていた。
通りはほとんど無人だった。
月が輝いていた。
そして彼は震えていた。
「もうムリだぁぁぁ!!!」
彼は虚空に向かって叫んだ。
しかし、その“虚空”が答えた。
「かぁーーい!!」
すぐ後ろでリュウナが歌うように呼んだ。
「スピード落ちてきてるよ! 押してあげようか?」
「押すなぁぁぁぁぁ!!!」
カイは角を曲がり──
そこで公園と正面衝突した。
滑り台。
ブランコ。
砂場。
シーソー。
全部、無人。
カイはふらつきながら公園に入り、どこへ向かうべきかもわからず歩いた。
「計画が…いる…なんでもいい…なんでも…!」
彼は周囲を見渡し──シーソーを見つけた。
大きな木製。
古い土台。
巨大で頼りなさそう。
カイは笑った。
悲劇的な笑い。
狂気混じりの希望の笑い。
「これだ。子供向け工学の最高傑作。」
リュウナが公園に入ってきた。
砂の上をすべるように歩き、
“プライバシー侵害”という概念を一切理解していない動きで。
「カイ〜〜! ロマンチックな場所を選んだね!」
「ロマンチックじゃない!! 目についた最初の場所なんだよ!!」
リュウナはシーソーを見て、目を輝かせた。
「わあぁ……二人用の仕組み! カップルにぴったり!」
「カップルじゃない!! 子供用!!」
カイは片側に乗った。
シーソーは彼の重みで地面まで沈み込む。
「今だ…」
彼は小声でつぶやいた。
「彼女が反対側に座れば…」
リュウナが巨大な笑顔で近づく。
「カイ…一緒に遊ぼ?」
「罠だ!!」
「愛の罠は大好き。」
「そんな罠存在しない!!」
リュウナはそっと反対側に座った。
シーソーは──
動かなかった。
まったく。
びくりとも。
微動だにせず。
カイは彼女側を見た。
次に自分側を見た。
「……マジかよ。」
リュウナは瞬きをした。
「なんで動かないの?」
「お前が“全長300メートル級の海竜”だからだよ!!!」
「そっか〜……今日は軽いと思ってたんだけど。」
カイは尻もちをつき、魂が抜けた顔になった。
「もう何も…効かない…全部やったのに…」
リュウナが体を傾ける。
地面がズズッと沈む。
「カイ…大丈夫。もう逃げなくていいよ。」
「逃げる必要あるわ!!!」
「ないよ。」
彼女が手を軽くシーソーの中央に置いた。
──バキィッ。
シーソーは真っ二つに割れた。
カイは飛び上がった。
「公園のシーソー壊したぁぁぁ!?」
「だって役に立ってくれなかったし……」
「役に立たせたかったんじゃない! お前を遠くに飛ばしたかったんだよ!!」
リュウナは折れた板を持ち上げ、じっと眺めた。
「カイ……」
「なんだよ!!?」
「あなた、木材の使い方が独創的だね。」
「それ褒め言葉じゃないから!!」
リュウナが近づく。
やさしい笑顔。
闇でも光る瞳。
混沌と平和を同時に撒き散らすオーラ。
「カイ……今日はいっぱい遊んだよね。
もう……そろそろ、マーキングさせて?」
カイは絶叫した。
「やだ!! やだ!! 絶対やだ!!」
彼は滑り台へ走った。
登る。
滑る。
砂まみれ。
足をひねる。
着地失敗。
顔面から転倒。
だが即座に立ち上がり、また走った。
何事もなかったかのように。
リュウナはのんびり追いかけてきた。
魚の天ぷらをぷらんぷらん揺らしながら。
そして公園には、
人類史上もっとも奇妙な追いかけっこの跡だけが残った。




