第22章 — ターボ買い物カート作戦(そして狂気のレース)
カイはシャンプーでツルツルになった体のまま通路を滑り、
巨大なペットフードの山に顔面から突っ込んだ。
よろよろと立ち上がるカイは、
まだ桃とミントと絶望の匂いを放っていた。
リュウナは後ろで滑りながら、
人生で一番楽しそうに迫ってくる。
「カーーーイ!!!♡」
「滑り方うますぎ! 感動しちゃう!」
「感動するなぁぁぁ!! 逃げてんだよこっちは!!」
カイは滑りながら通路を飛び出し──
その瞬間、見つけてしまった。
買い物カート。
ずらっと並んだ金属の軍団。
カイは狂気の笑顔を浮かべた。
「これだ……」
「カイ? なんでそのカートを武器みたいに見るの?」
「武器だからだよ!!!」
カイはカートに飛び乗った。
座った。
柵を両手で握った。
そして──
全力で床を蹴った。
カートは、ワックスの効いた床の上を
鉄のミサイルみたいに加速!
カイは叫んだ。
「ターボォォォォォォ!!!」
リュウナは感動していた。
「カイ! 人間の乗り物になったのね!! 素敵!!」
カイは棚の横を猛スピードで通り抜け、
スナックを倒し、
米を散らし、
コーヒーを飛ばし、
トイレットペーパーの山を爆散させた。
しかし──
リュウナはただ走って追ってきた。
……そして彼女のほうが速かった。
カイは振り返り絶叫。
「なんで!! なんで制御不能のカートより速いんだよおおお!?!?」
「だって私、恋してるもん♡ 恋した海竜はもっと速くなるの♡」
「理屈ゼロォォォォ!!!」
リュウナが迫る。
カイはカートを左に切った。
切った。
……そして
横転した。
カートは空中で回転し、
カイは吹っ飛び、
意味不明なアクロバットをしながら──
乳製品コーナーに墜落。
バフッ。
頭の上に大量のチーズが降ってくる。
カイは放心しながらつぶやく。
「……人生……嫌い……」
リュウナが現れた。
ぐにゃっと曲がったカートを片手で持ちながら。
完全に玩具。
彼女はキラキラした目でカイを見た。
「カイ……買い物カートをあんなに優雅にひっくり返すなんて……♡」
「優雅じゃねぇよ!! 事故だよ!!!」
「でも……飛んでるとこ、すっごく綺麗だった……♡」
「綺麗じゃねぇぇぇ!!!」
リュウナはしゃがんで、首をかしげる。
「カイ……転んだし……見つけたし……なら、もう“あれ”してもいいよね……♡」
カイは弾かれたように飛び起き、
額についたチーズをむしりながら叫ぶ。
「ない!! ないから!! “あれ”も!! “儀式”も!! “ちょっとした爪痕”も!! なぁぁぁんにもない!!」
リュウナは微笑む。
「そんなに怒っちゃって……かわいい♡」
「かわいくねぇ!! パニックなんだよ!!!」
カイは再び走り出す──
が、ヨーグルトを踏んで滑り、
フリーザーの横の壁にぶつかり、
そのまままたフリーザーの中に落ちた。
バタン。
「なんで!! なんで毎回こうなんだよぉぉぉ!!!」
カイは内部から叫ぶ。
外ではリュウナがガラスをトントン。
「カイ……♡」
「開けるな!!」
「カイい〜〜♡」
「今! 凍死中!!!」
「海竜になれば寒くないよ♡」
「理論がひどい!!!」
「じゃあ出てきて♡」
カイは紫色になりながら扉を開け、
氷の塊のようにフラフラ出てきて、
再び逃走。
リュウナは楽しげに追う。
その笑顔は恋と狂気のミックス。
「カイ〜〜待ってぇぇ♡ まだ印つけてなぁぁい♡」
「つけなくていいわぁぁぁぁぁ!!!」
そして2人は、
スーパーの別のエリアを盛大に破壊し始めた。




