第18章 — ガス風船作戦(大成功して、大失敗した)
カイは灯台から落ち、
砂の上を転がり、
デコレーション用の石に頭をぶつけ、
──なぜか無傷で立ち上がった。
神ですら「は?」となったレベル。
「もう無理ぃぃぃ!!!」
彼は絶望と疲労と塩水と精神崩壊を混ぜた声で叫んだ。
灯台から青く輝く影が降りてくる。
恋する雲のように。
「カーーーイ! あなたって本当にタフ! そういうところ大好き!」
「タフじゃねぇぇ!! 肉体が運良いだけで心は地獄なんだよ!!」
カイは走り続け、
その途中で、
とんでもなく“予想外”な物を発見した。
屋台の裏に──
ヘリウムガスのボンベ。
そしてそのボンベに繋がれた大量のカラフルな風船。
子どもの誕生日会で見るやつ。
にっこり顔が描いてあるやつ。
状況をバカにしてるみたいに笑ってるやつ。
カイは風船を見た。
リュウナを見た。
ガスボンベを見た。
そして──笑った。
完全に正気を捨てた人間の笑顔。
「これだ……これが完璧だ……!」
カイは風船全部を掴み、自分の腰に括りつけた。
リュウナは輝く瞳で見つめた。
「カイ……私のために飾り付けしてくれてるの?」
「違うわ!!」
「じゃあなんでそんなに風船つけてるの?」
「論理的で唯一の手段だからだよ!!」
リュウナは首をかしげる。
「人間の……論理?」
カイはヘリウムのバルブをひねった。
風船は一気に膨張。
増える。
増える。
さらに増える。
カイは少しずつ浮き上がった。
上昇。
ゆっくりと浮遊。
リュウナの目がキラキラと輝く。
「カイ……あなた……私の心も一緒に連れて行くのね♡」
「ロマンチックでもなんでもない!! 逃げてんだよ!!」
カイはアニメキャラのようにフラフラと宙に浮き、
必死の悲鳴を上げた。
「うわあああああああ!!!」
「カイ〜〜♡ 浮いてるあなた、とってもきれい! 私も飛べるよ?」
カイの体が一瞬固まる。
「……なんだって?」
リュウナはニッコリして言った。
「空でも、あなたに追いつけるよ♡」
カイは下を見る。
すると──リュウナが
跳ぶ。
浮く。
上昇する。
巨大な“生きた風船”みたいに、簡単に。
カイの魂が抜けそうになった。
「やだやだやだ!! 上がってくるな!!」
「行くよ〜♡ 海竜は、恋すると空も飛ぶの!」
「いつ!? どこで!? どの百科事典に載ってんだよそれ!!」
「私の百科事典♡」
リュウナはどんどん上昇。
カイもどんどん上昇。
ヤシの高さまで到達。
風が吹く。
風船が揺れる。
ロープがずれる。
カイは空中でコマのように回転し始めた。
「うぉぉぉぉ吐くぅぅぅぅ!!!」
リュウナは大喜び。
「カイ、すっごく可愛いよそれ! 抱きしめてもいい?」
「だめ!!」
「じゃあ印つける?」
「もっとだめ!!」
すると強い風が来た。
風船が引っ張られる。
そして──
パン!
ひとつ割れた。
カイが少し落ちる。
パンッ パンッ!!
また割れる。
カイはどんどん高度を失う。
リュウナは両手を広げて迎えようとした。
「カイ〜〜♡ 私の腕の中に落ちてきてぇ♡ 運命だよ〜♡」
「運命じゃねぇぇぇぇ!! 近寄るなぁぁぁぁ!!」
カイは落ちた。
ストン。
海に。
バシャァン!!
リュウナは恋するミサイルのように後を追ってダイブ。
カイは水面から顔を出して叫んだ。
「なんで毎回こうなるんだよぉぉ!!?」
リュウナも水から顔を出す。
濡れた髪が月光で輝き、微笑みは純粋な狂気。
「カイ……あなたは空から落ちてきたの……私の“見えない腕”の中に。
これはね、運命なの♡」
「運命じゃない!! 物理だ!!!」
「じゃあ……物理学は私を愛してるのね♡」
「愛してねぇぇぇ!!」
カイは必死に岸へ泳ぐ。
リュウナも後を追う。
輝きながら。
嬉しそうに。
主人公をビビらせる天才みたいに。




